レビュアー

大河、まさに大河。追体験して自分も成長

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 序章はとてつもなく重いです。  読んでいて何度か画面から目を離して天井を眺めました。 生々しく衝撃的、そして鬱展開が予想できる次を読みたくないとさえ……。  それでも一言一句逃さず読まなきゃと思うのは、登場人物の描写があまりにもリアルだったからかもしれません。物語だということを忘れ、1人の人生を見せつけられているかのような。彼らの行く末はどうなるのか……。  一転。  1章はそれまでの重さが嘘のような爽やかなはじまり。こってり料理を食べた後に流し込むビール、サウナ終わりの牛乳、運動した後のスポドリの如し。序章から1章と続けて読んだからこそ味わえる不思議な感覚です。  序章との落差に緊張が緩んで自然と笑みがこぼれました。1章のはじまりも学生特有の緩い感じです。あの登場人物が出るまでは。  登場人物たちの軽妙なやり取りに笑いそうになりますが、頭の片隅には序章の重さがあるので手放しに笑っていいのか不安になります。何がどうなってあそこに繋がるのか……。これについては大いに語りたい所ではありますが、ネタバレになってしまうのでご自分で体験してみてください。  シーンによって、同じ作品かと首を傾げたくなるほど印象が変わるのは作者さんの特色といっていいかもしれません。前作の長編、「新・古代神話スサノヲ」でも楽しませていただきました。時にシリアスに、時に軽妙に、時にクールに。  私のお気に入りのシーンは1章のカジノですかね。カジノの非日常感にワクワク。そして登場人物たちのトレンディさをつまみにお酒が飲みたくなりました。  2章、3章と読み進めていくと、これは誰の物語なのか明確に分かってくるでしょう。章によって時代が変わりますが、登場人物たちの人間関係に注目して物語を追って行ってみてください。この過去の出来事があったから彼らはこういう関係なのか……という視点で見ると、より面白くなるはずです。  そして、彼らの身に起こった出来事を追体験。心理描写がリアルなので他人事とは思えません。  心理描写といえば、2章で人物2人が立ち話しているだけのシーンが凄かったですね。傍から見れば立ち話。されど心情の豊かな動きがありありと描写されているので、どんなアクションシーンよりも激しさを感じました。圧巻です。  登場人物はいい人ばかりではありません。やな奴もいれば、やな奴では済まない奴も。しかし、「悪人」の一言で片づけられないんですよね。「悪い」というよりも「弱い」なと。弱さ、愚かさゆえの言動、あの出来事がなければ、この環境でなければ……と思わせられます。  それも上から目線で悪い、弱いと感じるわけではありません。この弱さは自分も持っている、自分も彼の立場だったら……と内省させられます。  この物語は主人公の現在、過去、と追っていくお話です。タイトル通りまさに「大河」のような重厚な物語。「赤い」の意味も物語の中で明かされます。「赤い大河」の意味が分かった時のカタルシスもいいものでした。  初めが「重い」と書きましたが、重い展開は序章だけではないんですよね。  しかし、目を背けることなく読み進めることができるはずです。どんな展開になっても受け入れられる覚悟ができてくるというか。彼らの視点を通して、読者である私自身も成長できたと思うのは自惚れでしょうか。  読む人によって感想が大きく異なる物語だと思います。皆に読んでみて欲しいなぁ。

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投稿日:2021年1月25日 03:34

最終更新日:2021年1月25日 05:06