レビュアー

そして始まるZEROからの

♡

500

〇

0

 タイトルの『ZERO』を見たとき、何かしら時間に関係のある物語なのだろうかと考えました。  そして表紙のイラストから受けるイメージは哀愁で、タイトルと合わせて何かしらの喪失感を描いた物語かと想像し、読み始めたのです。  私の想像は始めだけが正解で、後半へ至る頃には追い抜かれ、覆ってしまいます。  本作における水泳選手もまた、予想外の結果にダメージを受け、毎日のように濃い紺碧(こんぺき)色をした海へとやって来ていました。  彼は中学最後の試合にて味わった驚き、後悔、怒り、焦燥などといった負の感情を抱え、地上にいながら溺れているかのようです。  得意であるはずの泳ぎによって受ける苦しみは、彼の中から酸素のような大切なものを絞り取ってしまいます。そして最後の試合が行われたプールへと、大切なものを沈めてしまいました。  時間は止まり、ゼロから進まない時計の針を、しかし彼は進めようともがいています。  そのとき彼に声をかけた存在がいました。 【なぁ、君さ、そう焦るな。】  それが誰なのか、具体的には分かりません。幻聴かもしれませんし、あるいは見えない誰かが現れたのかもしれません。  ですがきっと彼は、始めから分かっていたのでしょう。  ふたたび時が、ZEROから動き出す瞬間を──。

5

投稿日:2020年9月14日 22:20

最終更新日:2020年9月14日 23:39