壊れかけの世界で生きる人達。彼らは貪欲で意地汚く、未練たらしいかと思えば強かで、歪ながらに純粋だ。

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 この物語は、あらすじ冒頭でも語られているように、架空史小説だ。つまり、我々の世界と軸を同じくしていながら、今のこの世界に至る道とは異なる世界線に分岐したifの歴史という事になる。  本文中で正確な暦が明らかになっていないと思うのではっきりとは言えないが、おそらく今から半世紀以上前の時間軸を設定して、物語が描かれている。  いや、どうだろう。これがこの物語の妖しい魅力の一つだと個人的に考えているのだが、この物語はともすれば、今から半世紀後の時間軸を舞台にした、近未来なのではないかなどと、他愛もない妄想が膨らむのだ。兵器や交通の技術、政治背景などを考えると、十中八九違うだろうとわかってはいるが、そう思えるのだ。  ともすれば、今から半世紀後の世界はこんな風になっているかもしれないと。  まあ大袈裟な杞憂だ。一笑に付してもらいたい。  だがそれだけ、この小説の壊れかけた世界観には、妙な真実味がある。  そしてその世界に生きる人々。彼らはお世辞にも魅力的な人物像とは言いがたい。誰も彼もが、救いようのない悪党か、度し難い狂人だ。それでも彼らには、否定できない人間味がある。  この壊れかけの世界が、それでも壊れずにそこにあるのは、彼らの存在が繋ぎ止めているからだろう。  もっとも、その世界を壊しかけたのも彼らなのだが。  血を洗うために血を流し、死体を埋葬するために屍を積む。これはそういう、どうしようもない堂々巡りな螺旋軌道の物語のように感じられる。  案外世界はそうやって、行ったり来たりのノロマな足取りで進んでゆくのかもしれない。

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投稿日:2021年6月9日 19:48

最終更新日:2021年6月9日 19:48