レビュアー

ネタバレ

多くの"相反した両立"を抱えた物語です

♡

2,000

〇

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※ノベルアップでは長文感想を書けないため、ネタバレ有りのレビューという形にさせていただきました。そのため純粋なレビューとは言えないものになってしまいましたが、ご容赦ください。 まずは軽い内容の紹介です。 両親の死を受け入れられず、神社の家の娘でありながら神道を拒絶する少女の成長が描かれています。 好意的に接してくれる同級生の男の子と、森で出会う不思議な白い男の子。彼らとの交流と、気づかずに踏み込んでいた非日常を経ることで、少女は進むべき道を見つけます。 ここからは感想といいますか、アピールポイントを挙げていきます。 やや特殊な構成ではあるものの、大筋は奇をてらわずに、しかし読ませられる物語です。 どっしりと安定した流れで先の展開が読めるのに、常に期待の上を走ってくれる楽しさがあります。それも斜め上ではなく、流れに従う真上への飛躍です。だからこそ予想通りに進みながらも、予想できない面白さがあります。 安心感のある驚きにより、飽きを感じる間もなく読み進められるでしょう。 巧みな文章もまた、読みやすさを後押ししています。 視覚だけでなく聴覚や体感も大切にすることで、一人称の強みを十二分に引き出しています。そこに動作と感情まで加わるため、読んでいて非常に臨場感のある文章です。 そうして強烈な惹き込みが生まれることで、読み進めた文量に比例するように感情移入も深まっていきます。 感情移入のしやすさについても、その絶妙な気配りには感服させられます。 巫女という特殊な立場ではありますが、あくまで主人公は等身大の少女なのです。 はっきり『恋』とは表現せず、匂わす程度で話を進めていることで、自身の感情に気づけないでいる心情を。感情に振り回される人間臭さに、両親の死を受け止められない未熟な精神。それらによって、主人公が特別ではない普通の少女だという印象が深まっています。 だからこそ共感もできますし、成長も感じられるのでしょう。そうして生まれるドラマには、とても強い説得力があります。 以下、ネタバレを含みます(ほぼ感想かもしれません)。 恋愛での重要点である、恋を自覚する瞬間。そのシチュエーションが、また憎らしいほどに葛藤を呼びます。 彼を"神"としてではなく"個"で認識してしまったからこそ、少女が抱いたのは信仰ではなく恋心だったのでしょう。近づき過ぎたことで、別離を避けられなくなるジレンマです。 恋をしてしまったことで共にはいられなくなる。それはどこか神話めいて、最後の彼からは人間らしさを感じつつも、やはり人間とは違う存在だとも理解させられてしまう。そんな心地いい矛盾がありました。 人ではなく神との縁を望んだ少女は、まさに巫女に相応しい有り様なのでしょう。しかし純粋な信仰ではない心は、巫女には相応しくないとも言えるでしょう。 そんなちぐはぐな生き様は、どうしようもなく人間を表しているようで、強烈な現実性が神を遠ざけている気さえしてしまいます。だからこそ、最後の一文が際立ちました。 両親の死を受け入れ、神道に対する意識も180度変わり、都会ではなく神社に残ることを望む。とても綺麗な収め方だと思います。 冒頭の時間に繋がる終わりは、整った輪を幻視するかのように完成された読後感を残しました。 この様な現実と非現実を受け入れられる、寛容性のある舞台も素晴らしいです。 学校ではスマホや部活などからは身近な日常を感じられます。そこから田舎と神社を介することで、無理なく神の存在する非日常と繋いでいるのですから。 人の生活圏が自然を侵しきっていない田舎だからこそ、現代でも神秘が存在できる余地があるのでしょう。 最後になりましたが、『君な忘れそ』というタイトルが本当に秀逸です。 たった文字だけで、この作品の全てを射止めています。読了してタイトルを見直せば、この言葉以外では言い表せないと思えるほどの美しさでしょう。 古い言い回しからは、巫女という主人公の特殊な立場を。言葉の響きの柔らかさからは、"未熟な少女"と"淡い気持ち"を。そして願望混じりの禁止命令からは、主人公の心そのものを。そんな複数のメッセージを凝縮して叩き込んでくるような、心が揺さぶられるタイトルです。 字面に対して込められている熱のギャップも、強烈な印象を刻ませる要因だと思います。 長くなりましたが、非常に深みのある素晴らしい作品です。読み返すたびに新しい気づきがあり、何度でも楽しめる物語だと思います。 未読の方は、ぜひ読んでみてください。

good

7

投稿日:2019年11月18日 01:12

最終更新日:2019年11月18日 01:20