——合コンと戦場には、恐ろしい魔物が棲んでいるとよく言われている。 だが、雨森琥珀さんの描くストーリーには、陽気な妖精もたまには現れるのらしい。凶悪なモンスターたちとエンカウントしてきた身としては、正直ちょっぴりうらやましい。 だが注目すべき点はそこではない。 雨森琥珀さんは記号に過ぎない人間の名前を、コミュニケーションツールとして欠かせない重要なものとして描かれている。会話の自然な流れといい、歓迎会は酔いが回ると方言が乱れ飛ぶカオスな状況といい——人間に対する観察力と、それを文章に再構成する才能が非凡であると素直に認めたい。 日常の一幕を描くのはとても難易度が高く、例えば「恋人が死ぬ」ワードをぶち込んで、話を盛り上げたい欲求を捨てきれない小心者の私としては、かなりハードルが高いが、雨森琥珀さんは「主人公の名前の出し方」というお題を楽々とクリアし、ストーリーは遥か頭上を超えていった。 この才能こそ、物語を書く人間にとってうらやましいと思うべきである。