突如として現れた、大陸を両断する魔力の壁。
人智を超えた不可思議な現象により、壁に隔てられた東西の世界を行き来することはできなくなり、人々はやがてその壁をこう呼ぶようになりました。
“境界線”とーー。
主人公セイジは、境界線の越境に耐えうる類まれな能力を認められた「聖騎士」です。彼は騎士の最高位である聖騎士の資格を得て間もなく、境界線の彼方へと姿を消してしまいました。人の住まう土地についぞ戻らなかった彼は、『彼の地』で死んでしまったのだと、誰もが考えるようになりました。
そして時は流れます。
セイジと同じく聖騎士となったフェルミーナ国王女・クリスティアは、忽然と姿を消してしまった先代聖騎士・セイジを捜索するため『彼の地』へ赴きましたが、行方をつかむことのできないまま、城下町に凱旋していました。
パレードの終盤を飾る剣技の演目で、王女の雄姿を一目見ようと集まった多くの人々に、彼女は惜しみなくその腕を披露します。宮仕えの魔法使いたちが生み出した煙の剣士を、クリスティア王女が倒していく趣向で演目が進んでいくのですが、その煙の剣士たちの中に、正体不明の剣士が乱入します。
闖入者と対峙するクリスティア王女。衆目の中、クリスティア王女と謎の剣士は、激しい剣戟を繰り広げます。剣士は決定的な一打を決めますが、その直後にクリスティア王女からの反撃を受け、炎に紛れて姿を消してしまいます。剣士の正体は分からないまま、クリスティア王女が剣士を打ち負かした格好となり、彼女は拍手喝采を受けます。
しかし剣士はうっかり首飾りを落としていきました。クリスティア王女が首飾りのプレートをあらためると、なんと、そこに刻まれていた名はーー。
* * *
ドラマティックで息つく間もなく繰り広げられるストーリー展開。本作の魅力は何といっても最高にかっこいい戦闘シーン!
ひとつひとつの動作を丁寧に、かつスピード感を損なうことなく書き上げていらっしゃいます。戦闘そのものが見せ場であるのはもちろんなのですが、各登場人物が背負っている覚悟や使命、責任といったものが、彼ら彼女らを輝かせているのです。
自身が背負うものは何か。
ゆずれないものは何か。
目指すところはどこなのかーー。
セイジやクリスティア、そしてセイジといつも一緒にいるローズマリーといった少年少女が、戦いを通して自分自身を見つめなおし、少しずつ成長していく様子は、勢いある戦闘シーンと対照的に、繊細で丁寧な筆致で描かれています。
境界線にまつわる怪異を解き明かそうとするセイジたちの挑戦は、この世界の謎への挑戦そのものです。謎が謎を呼び、彼らはやがて人智を超えた存在に出会います。様々な思惑が絡み合い、セイジを中心として大きなうねりとなっていく物語展開はまさに圧巻です!
手に汗握る本格ファンタジーを、是非ご堪能ください!
※ セイジさんを描かせていただいたファンアートです。
※ 本レビューは、第一部完結時点(第六章)のものとなります。