ネタバレ

ページをめくる手が止まらなくなる魔性の御作です!

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【あらすじ】  去年の6月に初めてゾンビの存在が確認されて以来、ゾンビが発生するとテレビで無理な外出は控えるようにと警報が流れるようになった。季節は巡って初夏。ゾンビが初めて確認されてから1年が経った。テレビでは年がら年中ゾンビ、ゾンビと騒いでいるが、主人公の田守(たもり)太郎(たろう)はまだ一度もゾンビを見たことがない。それは太郎だけでなく、家族や、太郎と交友関係のある人たちも同じ。メディアが作り上げた架空のモンスターなのでは?と思うほどに現実味のないゾンビなるものは、気圧変化の激しい時期に最も発生しやすい傾向にあるらしく、メディアでのその扱いはまさに台風と同じだった。  ゾンビが出ようが、外出を控えるようメディアが訴えようが、みんな普通に会社へ行き、学校へ行き、買い物だって行くし、なんなら状況の変化を見ながら友人と遊びにだって行ってしまう。台風の時と全く同じだ。警戒レベルが高くなければ、みんな普通の生活を普通にしていた。  ゾンビが出始めた頃からニートになった太郎は、ゾンビ警戒レベル3が発令中でありながら、母に夕飯の買い出しを頼まれしぶしぶ外へ出た。普段から引きこもり気味なため、人気のない道に安心感を覚える。ゾンビにも全然遭う気配がなく買い物を終え、内心ちょっとビクビクしていただけに「全然余裕だった」と思う太郎だったが、帰り道ゾンビと遭遇してしまう。闘い方も知らないまま無いよりはマシだと持ってきた角材でゾンビと対峙する太郎だがーー。  この日を境に、世間とも一線を引いていた太郎の日常に、これでもかとゾンビが割って入ってくるようになる。世は世紀末かと思われるほどゾンビ被害が拡大していく中、太郎はアニメ鑑賞したりゲームの実況動画を配信したりニートなりに忙しく充実したこの日常を守るべく、やむを得ず遭遇するゾンビを時に駆除し、時に誘導して非日常からの脱出&生還をはかりーー全力で生き延びようと足掻く日常的ゾンビアクションストーリー。   【物語の魅力&感想】  個人的にはこんなに一話一話の「引き」と「めくり」の強い作品は久しぶりに読みました。本作は主人公の一人称で書かれており、作品世界に入り込みやすいです。物語が進んでいくごとにどんどん夢中になっていきます。主人公は成人男性ですが、地の文章はコミカルかつリズミカルなので女性読者も楽しく読めるように思います。状況描写と心理描写の比率も心地良く、一話ごとの文章量や「引き」と「めくり」を含むストーリー構成、物語内で取り上げられているリアルな情報の裏取りなどをとっても、読者がひっかかりを感じることなくただただ夢中になって楽しめるようにと様々な部分に配慮を行き届かせて作り上げた作品だと感じました。  リアリティもすごいです。現代社会の状況、主人公の性格や事情、ゾンビのグロさや緊迫感、それでいてふと見上げた夕焼け空の美しさなど。一読者として、登場人物たちと一緒に手に汗握る場面の臨場感はさることながら登場人物間や日常で感じる様々な感情に共感を覚え、月並みな例えにはなってしまいますが、隣の現実世界を見ているかのように本当に作品世界に引き込まれました。  また、ゾンビ発生の起源についての取り扱いも、より作品の「味」が引き立つと言いますか、よりリアルに感じられるようになっていて、魅力的に思いました。読者としてはドキドキ感がたまらず、胸をくすぐられます。  物語の最大の魅力なのが「日常」の定義の変化でした。中盤で思うか終盤で思うかは読者一人ひとり違うかと思いますが、ラストは格別ですね。最後まで読ませていただいて、作品を閉じるのがなんとも惜しいーー素敵な余韻に浸ることができる作品でした。 【物語の見どころ】  『明るいホラー』と作者様から紹介がありますが、序盤で「嘘! かなり怖いよ!?」と思いました。そんな裏切り(?(笑))を感じながらも読み進めるうちに「……いや、そのその通りだ」と、『明るいホラー』の意味をもう一下層深いところで理解することになります。  そしてゾンビとのバトルは本当に手に汗握ります。何のステータスもない一般市民である主人公がゾンビに遭遇した時のハラハラ感だけに留まらず、日常に割って入ってくるゾンビが多すぎて不運にも上がっていく経験値を生かして脱出&生還を試みるドキドキ感は物語が進むにつれてさらにさらに盛り上がっていきます。本当に決して盛り下がらないんです。徐々に明かされていくゾンビの習性、行動特徴、そしてそこから導き出される闘い方が変化していく上、自警団のボランティアをしている久実ちゃんやハンティングが好きな神野(じんの)くん、危険も顧みないほどの好奇心の持ち主の青山くんたちも加わることによって、ゾンビとのバトルはどんどんスケールアップしていきます。  ゾンビ評論家の下飯木(したいいき)先生 (通称、下先生)の専門的な解説やコメントと比べると、生き抜くために必死にゾンビについて知り、立ち向かう主人公の頑張りは本当にカッコイイです。どこか「現実世界の報われない現場の努力」を彷彿とさせますが、それでも自分だけでなく守れる範囲で最大限人助けをしようとする主人公の姿は人として尊敬でき眩しく映りました。  腹が減っては戦は出来ぬ、とよく言いますね。ちょっとぷっくりしたおなかの主人公はゾンビと遭遇するたび「生き延びたら痩せよう」「今度こそ絶対痩せよう」と思い、無事生きて帰り食にありつけた時は「感謝、感謝」と言いつつも、なぜか次のピンチも同じことを言っていたりします。そんなあたりも人間らしく、くすりと笑わせてくれます。  そして何より趣味は救いだなあ、と。読者が最大に共感を覚えるのはここではないでしょうか。ぜひ一読いただき、確かめていただければと思います。  アクション、ホラー、友情や恋愛の等身大ヒューマンドラマ、どこに注目して読んでも楽しめる作品です。ご一読いかがですか?

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投稿日:2021年10月14日 01:00

最終更新日:2021年10月14日 01:00