異世界に転生した苦労の多い元おっさんの冒険譚。

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『異世界』に転生し、圧倒的な超常能力を手に入れ、好きな様に生きる……世知辛い浮世の重圧から逃れたく、そう夢想する人も多いのでは無いでしょうか。昨今の異世界転生物語人気は、実のところ現実世界の映し鏡――老いも若きもこの世に疲れているが為、幸せな来世の具現とも思える『異世界』に想いを馳せるのだろうと思う次第です。 そういった異世界転生物語人気の趣旨を踏まえて考えると『アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?』――こちらの作品は、比較的ストイックな世界観で綴られた異世界冒険譚だと感じます。 まず、主人公である元おっさん(三十八歳)のマコトは、酷い事件に巻き込まれて異世界に十六歳くらいの年齢で転生するも、その異世界に転移した人間としては一般的な優遇措置(成長性に上限が無い)が設けられているのみで、なし崩し的に始まる冒険の序盤では血を吐く様な目に遭い続け、ある程度の実力を有するまでに、それこそ死ぬ思いを繰り返すという……この突き放した容赦の無い厳しさは、多くの異世界転生作品とは趣きを異にしている印象です。 更に脇を固めるヒロインたちも個性的かつ魅力的でありながら、それぞれにはっきりとした意志と自己主張を抱えている為、主人公のマコトが多少強くなったからといって、あっさり靡いたりしません(最初から主人公に強い恩義を感じている娘もいますが)。そんなしっかり者揃いの娘達と、主人公・マコトとの距離が何故縮まるのかと言えば、精神的にある程度成熟したマコトの行動力と判断力、苦しい人生経験から来る知恵に支えられた強かさ、同時に奇妙な稚気が好印象なのだろうと感じます。 冒険にせよ、ヒロインたちとの交流にせよ、現実同様に簡単では無く、思うが侭にならない難しさに正面から対応する様子こそが、元おっさんを主人公にした意味なのだろうと思う次第で、元おっさん故に苦労や理不尽にも耐えられるという、その上で与えられる冒険の成功報酬に読者としても『ああ……良かった報われて……』と共感出来るという、この飴と鞭的なバランスが心地良くも癖になるお話です。 個人的には――主人公のマコトと事ある毎に対立し、言い争い、文句をつけ合っている最初のヒロイン・ユウカちゃんがお気に入りです。 一〇〇回に一度くらいの割合でマコトに歩み寄りを見せるも、基本的にハードかつアグレッシブな言動、その小気味良さはいっそ清々しく、お話を読み進める中で知る事になる彼女の生い立ちなどを考えると、気高さすら感じられる意地の張り方で、このまったく思い通りにならない美少女こそが、この厳しい異世界の在り方を体現している様に思えます。 そんなユウカちゃんとマコトの関係は、背中を預け合う戦友でありバディ、文句を言いながらも絶対に相手を見捨てないという関係に、クールな物を感じます。 他のヒロインたちも魅力的で可愛いのですが、彼女らとの関係もベタベタしたものでは無く、艶っぽいシーンを共演しつつも、人として適切な距離感が保たれており、そこに疲れた元おっさんなりの美学というか、ハードボイルド的な側面が感じられ、マコトの魅力となっている――そんな風に思う次第です。 一読の価値ある傑作です。

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投稿日:2020年10月3日 16:12

最終更新日:2020年10月4日 20:10