ぼくは中学生になった今でもシルバーウィークにはお父さんの運転する車に乗って田舎のおじいちゃんの家をおとずれる。 あまくておいしい柿がなる木のある家。 そして……あの日。そのいたみが一生おさまることのないきずを負った場所。それと同時に、ぼくに何よりも……絶対に忘れてはいけない大事なことを教えてくれた場所。 車の助手席にすわるぼくは、道路に何かが転がっているのを見つけた。車がそれに近づくと……ぼくはその正体が分かった。それは、他の車にひかれたアライグマだったのだ。 その瞬間。ぼくの右手のきずは、ズッキン、ズッキンといたみ出した。とうの昔に治ったはずのきず……だけど、そのいたみは、一生おさまることがない。 だって、ぼくは絶対に忘れはいけないから。あのアライグマのこと。あのアライグマが味わった深い悲しみ、怖さ、さびしさ……そして、人間の身勝手さ。 だから、ぼくの右手では『アライグマのきずあと』がいつまでも……ぼくに忘れさせないように、ズッキン、ズッキンとそのいたみを残している。
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