時は明治末期。帝都東京の近郊にある、日本建築に無理矢理洋間を足した奇妙な家。 翻訳家の鈴島は、不自由な足と火傷のある顔を人目に晒さないため、二年の間家に引きこもっていた。 生きる希望も特になく、ただ漫然と毎日を過ごしていた鈴島の前に、ある日若い男が現れる。 「やあ、俺を買ってくれよ」 八城と名乗り、庭から上がり込む美少年を放っておけず泊めたことから、野良猫のような八城と、もう外へ出るまいと決めていた鈴島の奇妙な交流が始まった。 元々男を相手にする趣味がない鈴島は、自分を買えと迫る八城に二つの契約を持ちかける。 「鈴島は飯の分だけ八城の体に触っていい」「この家にはいつでも泊まっていいが、その際鈴島は八城を猫として扱う」 戯れのような提案に、行く宛てのなかった八城は了承する。 奔放で老若男女問わず遊び回っている八城は、恋愛絡みの暴力沙汰に巻き込まれて鈴島の家に逃げ込んできたり、客人の前で鈴島の恋人を騙ったりともめ事ばかり起こすが、顔の火傷や引きずった足を忌まず、常に明るい八城に鈴島は少しずつ心を開いていく。 そして、八城の手を借りながら、少しずつ外へ出る練習を始めるのだった。 一方八城も、自分を束縛せず、ただ居場所を与えてくれる鈴島に心惹かれていく。 しかし、幼い頃から体を使って生きてきた八城は真っ直ぐな恋をしたことがなく、鈴島に対して一歩踏み込めない。本音を隠しながら契約通り、猫のように振る舞って今の関係性を保とうとするのだった。 改めて恋をするには全てを諦めすぎている鈴島と、今更恋など出来ない程手慣れた八城。 お互いの過去を緩やかに知り合ううちに、お互いの温もりが離し難いものになっていく。 明治時代舞台のボーイズラブ。 あらすじがあれですけど完全なる全年齢対象です。 飼い猫お坊ちゃんと野良猫不良少年の両片思いです。 『BOYSFAN』 BLコミック原作小説コンテスト「お題フリー」応募作品。
読了目安時間:1時間13分
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