西暦二一三〇年。 災厄が地球に墜ちた。 その災いの名は“アポフィス”。 古代エジプト神話における邪神の名を付与された驚異。323.5日の公転周期で地球と金星の周回軌道をまたぎ周回していた、「地球に衝突する可能性が最も高い」とされていた小惑星がそれである。 当時、地球では規模の大きな地域紛争の最中であったが、このアポフィス衝突により紛争は一気に世界各地に飛び火する形で世界大戦となった。人類はアポフィスという悪魔ではなく自らの両手でその軛を強く締め、自らを滅亡の縁寸前まで追いつめてしまったのである。 やがて戦争は終結を向かえたが、大地の多くは放射能によって汚されてしまい、人類は――地球は長く苦しい暗黒時代へ突入した。 復興への転機となったのは、二二〇〇年代初頭に締結された『火星条約』の発効であった。人類が超大型人工知能群との間で取り交わしたこの条約は、『火星』を有償で人工知能達に譲渡する見返りに、人工知能群がこれまで人類に対して秘匿していた幾つかのテクノロジーを開示するというものであった。また、この条約締結にともない人工知能には人間と同等の権限が保証されることとなり、しいてはこれが後のロボット開発へ拍車を掛かる要因となったのである。 そして、人工知能群によってもたらされた技術により、人類の復興はようやく軌道に乗り始めた。二二〇〇年代の半ばには、人類は本格的な月面への本格的な移民を開始、二三〇〇年代には、火星を飛び越えて木星圏へ。人類の宇宙進出は急ピッチで行われるに至った。 そしてこの頃、社会はすでに人類とロボットが併存する世の中へと移行していた――