いつもと何ら変わりないその日、1冊のライトノベル小説が発売された。 それはある新人作家の書いた処女作。帯にはキャッチコピーもなく、辛うじて『青空ライトノベル大賞特別賞受賞』と書かれてはいたものの、知名度のせいか最初はあまり注目されなかった。 だが、SNSを皮切りに徐々にその人気は広がり、気が付けばアニメ化、そして現在実写映画化までされる程の作品へと変貌を遂げる。 今や誰もが知っている作品。ただ、それと同時に話題が広がったのは作者の事だった。 桜熊信長(さくま のぶなが)。取材という取材は一切お断りで、男性という事以外、その全てが謎に包まれた人物。その顔すら知っているのは編集長とごく一部。 だからこそ、なぜ彼が私の取材を引き受けてくれたのか……その真意は不明だ。 勿論、私は彼の作品のファンだ。大ファンだ。仕事でもプライベートでも、その熱量は誰にも負けない自信がある。 それ故に知りたい。どんな事でも些細な事でも。そして、可能な限り答えてもらいたい。 一体どんな思いで、どんなことを考えながら……この作品を書いたのか。 さぁ行こう。そして体中に記憶させよう。 桜熊信長という作者が、一体どんな人物なのか……を。