過疎化の進む、地方の限界集落「豊落村」では五年に一度、土地神である水神様に人間の子供を捧げる祭りが行われていた。 百年ほど前からは、過疎化や近代化の流れから人間を生贄にすることが難しくなり、交渉を重ねて家畜を生贄としてきたが、とうとう水神から人間を寄越せという要望があった。 そこで人身御供に選び出されたのが、捨て子の「田辺洸」だった。 BOYSFANコンテスト『お題フリー』参加作品 物心のついた頃には両親はおらず、体もひ弱で、おまけにおかしな目をしている自分が、いかに異端な存在であるかを洸は知っていた。 そんな自分が大人たちから疎まれる存在でありながらも衣食住を整えられて育てられ、それなりに可愛がられてきた理由も分かっていた。 人身御供の意味も生贄という言葉も、自分の命が祭りのその日までであるということも承知し、受け入れていた。 それなのに祭りの日、祭壇に上がった洸の前に現れた水神は中々生贄を喰おうとしない。それどころか、こんなことを言った。 「久しぶりに人と会話が出来るのだ。直ぐに喰ってしまっては勿体ない。色々話をさせてくれ。私を楽しませてくれる分、生が延びるぞ」 そう言って、洸を自分の住処へと連れ帰ってしまう。 水神の気まぐれに困惑する洸に、水神は更に訳の分からないことを言い始める。 「今からお前は蟒蛇洸逸だ」 「私の名は洸逸につけてもらおう」 ――――これは、心を許せる相手のいなかった捨て子と、寂しがり屋の神が異界で互いの孤独を埋め合っていく物語。
読了目安時間:3時間40分
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