「これからも、ずっと……友達で、いような」 高校最後の日。雨の音楽室。二人だけのギターの演奏会の後、秋津圭は友人の冬島涼の告白をさえぎってそう告げる。 言いかけた言葉を飲み込み、涙目でぎこちなく笑う涼。その姿と笑顔は圭の中で消えないしこりとなって、深い後悔だけが残った。 京都の大学に進学した涼とはそれ以来、街中で偶然出会うこともなかった。 それから数年。社会人になった圭は、出先から会社に戻る途中、一人の男性とすれ違う。 一瞬、涼がよぎり振り返る圭。遠ざかっていく茶色いギターケースを背負った背中に、すぐにそんなはずはないかとその場は流し、会社に向かう。 その数日後。会社からの帰り道に、圭は懐かしい音色を聞く。 優しくて、おだやかで、少し悲しいアコースティックギターの調べ。ためらいつつも圭はその音をたどっていく。 たどり着いた、甲州街道との交差点。歩道の角のデッドスペース。そこでギターを弾いていたのは、予想通りの涼だった。 高校時代のこともあり、その場から立ち去ろうとする圭だったが、不意に涼が奏でた演奏により引きとめられる。迷いながらも懐かしさもあり、少し離れた場所から涼の演奏を聴く圭。路上ライブが終わり立ち去ろうとすると、涼に声をかけられる。 夜の新宿。ギターの音色。離れていた二人が再会した時、思い出が逆流して止まっていた時間が動き出す。 忘れられない、音がある。 忘れられない、人がいる。 思い出はいつも苦い後悔と、ギターの音色とともにある。 【BOYSFANコンテーマ:リーマン】応募作品
読了目安時間:2時間17分
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