短編としてありますが、400字詰め原稿用紙に換算すると120枚ほどになるので、中編の範疇になります。それを3つに分けて公開します。 〈三つのうちの一つ 絵師、桃衣にまつわる話〉 天文13年(1544年)、尾張の織田信秀が斉藤道三の領地に攻め込んだが、敗れて撤退した。その尾張兵の中に、十久蔵、寅八、幾兵衛がいた。三人は、その途中で商家に忍び込んで、主人と女房を殺し、金品と女児をさらった。その一部始終を少年が目撃していた。 十三年後の名古屋の地で、十九歳の佐布は、寺での市で焼き物を売っていた。そこで、若い絵師、桃衣と知り合う。桃衣は生き別れになった姉を探しているという。佐布は、夫の十久蔵に虐げられており、桃衣に心を寄せる。十久蔵が遊里に出かけている間に二人は結ばれる。佐布は自分を連れて逃げてほしいと望むが、この地の有力絵師の元で修行をしたいと拒絶される。佐布は、桃衣に強くなって自分の運命は自分で切り拓くように教えられて、それを行動に移すが、桃衣にはある思惑があった。 〈三つのうちの二つ 尼僧、宇泉にまつわる話〉 勧進比丘尼の宇泉は、美濃から尾張に入り、山争い、水争いをしている百姓たちが数百人集まっているのにでくわし、巻き込まれそうになるが、難を逃れる。 宇泉は、探していた寅八に会う。寅八は綿屋佐平という商人の用心棒をしている。宇泉は、佐平が土倉に大金を預けていることを知り、近々、土倉に借銭をしている百姓たちが、土倉を襲う仕度をしていると教え、金を引き出すようにそそのかす。そして寅八にその金を奪うように持ちかける。 〈三つのうちの三つ 下女、菊にまつわる話〉 宇泉は、菊という娘に姿を変えて、最後の標的である金子幾兵衛の屋敷に下女として入り込む。 菊は幾兵衛の妻の累が、以前、桃衣という絵師とねんごろになったことをネタに、累に夫を殺させようとする。しかし、累を慕う下男の太助に刃物で背中を刺されてしまう。そして、死を覚悟した菊はすべてを明らかにする。
読了目安時間:1時間31分
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