【テーマ: お題フリー】 幼い頃から勉強漬けで生きてきた周一郎は、初めて自分の意思を通して編入試験を受けた。そこで出会った同級生たちは、自分が知らなかった楽しみを教えてくれる。 全寮制の別の中学に通っていた周一郎は、星野原学園が全寮制の分校を新設すると知り、編入試験を受けた。学力は同じかそれ以上なのに、この学園には前の学校にはなかった心のゆとりがある。あまりの環境の変化に戸惑いながらも、周一郎は少しずつ友人らと打ち解けていく。親から厳しく躾けられて育った周一郎は、記憶もおぼろげな幼い頃にしか祭りなどのイベントに参加したことがない。それを知った同級生三人と、夏祭りを楽しむ周一郎。中でも辰史の浴衣姿についつい視線を向けては、フェロモンにやられて手を出してしまう。前の学校ではストレス発散のために男同士のあれこれが推奨されていたが、この学園ではそうではないことも理解している。世間一般では受け入れられないことだと分かっていて、どこまでが友人間で許されるのかと日々試行錯誤しながら、それでも惹かれているのを自覚していた。 他愛もない会話が楽しい。水風船釣りすらおそらく初体験で。金魚すくいについてみんなであれこれ意見を出し合い、買い食いしてそぞろ歩きする。 帰りのバスの中でつい浴衣の内側に手を入れてしまう周一郎だったが、いつもなら止められるタイミングで辰史が反応しなかった。それ以上のことはなかったが、この時間で辰史の心情が何かしら変わったのかもしれない。 学園に到着し、そのまま屋上に誘われる周一郎。ほかにも大勢が昇っていくのを見て、不思議に思いながらも周一郎はついていく。 皆が空を見上げているのを見ても、ピンとこない周一郎。流星群でも降るのかと訝しんでいると、どおんと大きな音が空気を震わせ、ようやく打ち上げ花火が始まったことに気付く。 言葉もなく見入る周一郎に、辰史が花火のあれこれを説明してくれる。その嬉しそうなようすに、そんなに花火が好きなのかと解釈すると、周一郎が嬉しそうにしているから嬉しいのだと言う。 どこまでの触れ合いなら許されるのかと未だ迷いながらも、周一郎は辰史への想いを改めて認識した。 この気持ちに、名前はつけられないけど。それでもそばにいることを許してくれている。それが嬉しかった。 《web初出2013》
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