人見知りの中年作家・小槻健司は、年中自宅に引きこもって小説を書くだけの生活を送っている。彼にとって「作家」は職業というより、もはや生き方といえた。 ある日、「たまには......」というほどの気持ちで外に出てカフェに入った彼に、大学生の野上萌が声をかける。偶然にも彼女は作家・小槻健司の大ファンだった。健司は咄嗟に自分の正体を隠すが、自作の小説を読んでほしいという萌の強引な頼みを断れずにUSBメモリを受け取る。 萌との関わりを億劫に感じながら、「実は作家・小槻健司その人である」という秘密を守ろうとする度に意外な一面を発揮する健司......。 唯一の親友であり恩人でもある玉置恭介、その息子の幸一など、周りの人々を秘密保持のために巻き込みつつ、彼は人生のターニングポイントを迎える。 書くこと以外には趣味も楽しみもない、ある意味で人生の終局までを見通せてしまっているような男が、一つの出会いをきっかけにして過去と向き合い、新たな境地に挑んでいく。そして秘密に関わる人々もまた、各々の置かれた立場で人生を懸命に生きていく。 互いに影響し合いながらそれぞれの失敗、苦手、弱み、課題、壁に立ち向かい、答えを探していくヒューマンドラマ。
読了目安時間:14時間7分
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