親父が死んだ。有名人でも、企業の重役でもない、タダの田舎の、お調子者のくそオヤジ。ただ、親父には、家族でさえも知らなかった、「自分の幸せを切り売りする能力」があったのだ―― 神奈川県のとある港町を舞台に展開する、「幸せを切り売りする力」に翻弄された、不器用な親父と家族の物語。 あなたは、大切な人のことを、どれくらい知っていますか。 第一章 親父の背中 父親の葬儀の準備をすすめる中、息子である俺は、親父の日記帳と、不可解な内容が書かれた芳名帳を見つける。そこには、親父が家族にも隠していた、ある能力の事が書かれていた。なんでも芳名帳に自分の幸せを与えたい相手の名前を記載すると、自分の幸せを相手に譲渡することができるというのだ。 そんなことをして、親父は、幸せな人生を生きられたのだろうか。 悲しみの底の中で、俺は一枚一枚、芳名帳と、幸せを譲る経緯が書かれた日記帳をめくっていく。 第二章 消えない傷と、あなたへの想い 自分の幸せを家族のために犠牲にしてきた夫。妻である私は、夫の優しさや思いやりにあぐらをかき、最後の最期に彼を大事にしてあげられなかったことを心から悔やんでいた。 後悔と懺悔を繰り返しながら亡くなった私は、その後の世に、前世の記憶を持ったまま生まれ変わる。 運命の悪戯か、夫の生まれ変わりと再会した私は、複雑な思いを抱えながらも、再び彼に好意を持ち始めた。――しかし、「元夫」のもとには、前世の因縁から再び不幸が襲い掛かろうとしていた。 第三章 白い猫と神主 かつて「呪いの道具」として人間相手に猛威を奮ったワシは、術者の死によって、自由の身となった。永遠に続くとも思われる生に飽き飽きし、戯れに人を殺し、災厄の権化と化した。 ただ殺すだけでは飽き足らず、とある「道具」を生み出したことで、運命の歯車は思わぬ方向へ回り始めた。 ――「幸せを切り売りする力」が生まれるまでの経緯と、それを巡る人間と「神主」の悲哀を描く、もうひとつの「幸せを切り売りする力」の物語。
読了目安時間:1時間18分
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