中村凡太、彼は二十四歳の男性です。 何の理想も持たず時が流れるままに背丈を伸ばし、いい大人と呼ばれる頃には生活はすっかり荒んでいました。 計画もせずに仕事を辞め、都会へと引っ越したは良いものの職はアルバイト。 一人暮らしで学んだ事と言えば万年床と小汚い部屋の作り方くらい、まさしく夢も希望もありません。 そんな彼を救ってくれたのは、自分自身の作り出した夢の世界でした。 望みもしない明日を迎える為にボロ切れのような布団に入り込むだけだった夜の時間を夢は時には恐ろしく、時には美しく、ただ生きているだけでは見る事の出来無い世界で楽しませてくれました。 幻は感動を、恐怖には生きている実感を与えられ、凡太は生きる意味を夢に見出したのです。 少年の姿となって旅をする夢は何もかもを忘れ無我夢中に駆けまわりました。 凶器を持ち、残虐な行為に手を染めてしまった時もあります。流石に罪悪感は拭えませんでしたが、現実では到底あり得ない体験に暫く手の震えが治りませんでした。 人見知りで端正な顔立ちと言う訳でも無い凡太が自分自身不可能だと諦めている女性とのデートに近い夢だって見た事があります。 妄想は膨らみ続け、夢の中では立派な家に住み、母や友人までもをその世界に住まわせた凡太。家の周囲はこれからも夢を見ると共に新しい大地が構成され、世界は膨張してゆく事でしょう。 ここまで来ると狂気を感じます。そうです、彼は全てを夢に捧げ過ぎたのです。 現実に全く関心が持てず、日記に夢を書き付け、眠る事ばかり考えている日々。夢日記は脳に悪影響があると聞いた事がありますが、事実凡太は夢を見ない夜の方が少なくなりました。 それでも尚夢に没頭する凡太。心の奥底ではそんな自分に危機感を感じているのか、何処からか現れた刺客や怪物に狙われる夢が頻発し始めます。 抵抗する凡太、彼を止めるべく現れる怪物達。一体どうなってしまうのでしょうか。 これは一個人の頭の中だけで繰り広げられた、一人の青年の虚しく、滑稽であり、それでも彼が精一杯人生を彩る為に逃げ込んだ仮初めの世界のお話です。 ※自分でもジャンルがよく分からないので、とりあえず現代ファンタジーにしました笑 ※他のサイト様にも同時掲載しています。
読了目安時間:3時間33分
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