今年で二十五歳になるリル・レントはデルス王国の王都ダーナンにある「結婚と家庭を司る女神ヤーミー」の本神殿で十年にわたり巫女を務めてきた女性である。 巫女は神殿で行われる結婚式の時に女神に捧げる『祝婚歌』を歌うことにより「神殿内に陽が差して頭上から美しい花が降ってくる」という現象を起こせるのだが、通常なら数年で次代の巫女が現れるはずなのに何故かリルの代ではなかなか現れず結果として新しい巫女が見つかって引退する時には二十五歳となってしまっていた。 これまではヤーミー女神の巫女と言えば現役時代から縁談がいくつもあり引退と同時に結婚することが殆どであったが、この世界では「行き遅れ」とされる二十五歳のリルにはそれまでの巫女達のように引退前に来ていた縁談が全部キャンセル扱いされており神官長相手に盛大に愚痴をこぼす日々を送っていた。 そんななか、巫女としての最後の勤めを果たしたリルの元に一通の封書が届く。 名門貴族である南方辺境伯フレデリック・バーンズからのその手紙にはリルを是非花嫁に迎えたいと書いてあり、他に嫁ぎ先もないリルは不承不承ながら迎えの馬車に乗って南方辺境伯の領地へと向かった。 リルの好みである「渋い中年男性」とは正反対の彼女より七歳も年下である一八歳のフレデリックはリルの予想に反して屋敷に来た彼女を非常に大切にし、また屋敷の使用人も元巫女とは言え平民上がりであった彼女に親切であった。 だが、皆に受け入れられて安心したのもつかの間、屋敷で過ごしているうちにリルはフレデリックの「あること」がどうもおかしいことに気がついて……? 年上女性と年下男性の一風変わった異世界結婚ストーリーです。
読了目安時間:1時間14分
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