侯爵令嬢ユリア・アンドルフは、スフェリア王国王太子シリウスの「仮妃」として彼と「仮結婚」した。仮結婚とはスフェリア王国独自の制度で、世継ぎの王子が正妃を迎える際に十人の妃候補と仮の婚姻を結び、一年間ともに過ごした上で正妃となる令嬢一人(と希望すれば側妃にする令嬢を好きなだけ)を選び、あとの令嬢は実家に戻す(王家の責任で希望者には縁談を斡旋する)という制度である。ユリアは相応の家格と家門同士のパワーバランスの兼ね合いから十人の中に加えられていただけで、別に王太子妃になりたいというわけではなかった。好きか嫌いかと言われればシリウスのことは好きだが、恋情というよりは尊み、伴侶というよりは観賞用としての好きであったのだ。そんなわけで、正妃争いはその座をぎらぎらした目で狙っている令嬢たちに任せ、与えられた自分の宮の中で好きな勉強に打ち込んで静かに一年をやり過ごし、さっさと実家に戻るつもりだった。 ところが仮結婚して早々、神官になるために修行に出ている次兄から手紙が届く。彼には「予知夢」の特殊能力があるのだが、その夢の中で近い未来にユリアは他の仮妃の暗殺未遂を犯す「悪女」になり、本人も家族も処罰されて侯爵家は没落することになると出たというのだ。正妃の座を狙うつもりがないのにそんな馬鹿なことをするわけがない。これは他の仮妃を蹴落としたい令嬢から理不尽に冤罪をふっかけられたパターンだな、と理解した。 さてどうするべきかと考えていたところ、隣国へ留学中の長兄から手紙が届く。次兄は長兄にもこの予知夢の内容を知らせていたようで、手紙には長兄の考えた対抗策が記されていた。曰く、王太子に媚びまくって気に入られよ、と。そうすれば、困ったときに力になってくれるだろう、と。それも一理あるかなと読み進めていくと、王太子に擦り寄る手段として長兄は王太子の「好み」を暴露し始める。王太子の学友だったため、色々と情報を持っているのだ。とにかくやってみるか、とユリアは長兄の指示通りの服を作成して着用してみた。膝上丈のスカートとニーソックスを使った「制服」なるものを。 ……から始まる、何の因果か王国初の「アイドル」になってしまった令嬢とアイドル好き転生王子が互いを推すことになってしまう物語。
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