BLコミック原作小説コンテスト:テーマ③お題フリー 雑草が足首をくすぐる庭の奥。倉庫の錆びついた扉をこじ開けると、圧縮された時間の匂いがした。 一年ぶりに差し込んだ陽の光が舞い上がる埃を輝かせる。そんな光の幕に手を差し込んで、立て掛けてあるショベルを握る。手に馴染む木製のショベルをバットに見立てて振り、感触を確認。 扉を閉めると背後から「志田くん?」とおれの名前を呼ぶ声がした。 道路からこちらを覗く人物に見覚えがあった。おれと同い年くらい。十六歳。身長はおれよりも少し低く百六十五センチ程度で、まっすぐな前髪で目元が少し隠れている。こいつの名前は。 「浅井だよ」おれが口を開く前に彼は自身の名前を口にした。 そうだった。彼の名前は浅井和成、……だったはず。 「浅井な。浅井」 「覚えてないよね」と浅井は静かに笑った。 とっさに「覚えてるよ」と言ったが、確かにおれが彼のことをなんて呼んでいたのか思い出せない。苗字で呼んでいたのか、名前で呼んでいたのか、それともあだ名? 他のクラスメイトはなんて呼んでいたっけ。意識を過去へ遡らそうとするが浅井の声で阻まれる。 「帰ってきてたんだね」 「……うん、ついさっき」 「そっか」 沈黙が気まずく、おれは口を滑らせる。 「今から暇?」 「うん」 「ちょっと歩かない?」 一つの事象をきっかけにパニックに陥った人類。 一度は荒廃し、再生しようとしている世界の中で二人の少年は失った一年間を思いながら歩き出す。
読了目安時間:34分
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