ある日、突然弟が出来た。 水澤仁成はわけあって全く血の繋がりもない花村清司と暮らして十一年が経っていた。 この家に来たのは二桁になりたての子供の時分、暮らし始めた当初にはここにいる理由があったがそれは五年前に跡形もなくなってしまった。 最早仁成がこの家にいられる理由もない。けれど、未だにここにいる。清司の優しさに甘んじて、罪の意識を感じながらも赦され続けていた。 そのある日、清司が突然「弟が出来ます」と連れ帰ったのは清司と同じ苗字の花村臣だった。「少し変わった子かもしれないけど」そう紹介されたのは高校の卒業をほんの数カ月後に控えた少年だった。 あとほんの少しの高校生活にも関わらず親元から引き離さなければならなかった理由はなんなのか。その理由は明かされない。けれど清司の言った言葉は間もなく現実となる。 持ち込んだ荷物の荷解きも終わらないまま弟は姿消した。そして、見つけた弟は海の中にいた。服を着たまま、座って波に打たれていたのだ。 どうしようかと思った。どうしたらいいのかと。 花村家に臣が加わったその日からその奇行は繰り返される。どれだけ咎めても、どれだけ叱ってもけして海に入ることをやめはしなかった。 突然出来た弟の奇行に振り回される仁成は苛立ちを募らせる。しかしそれもまた、仁成自身の心を誤魔化す為の術でもあった。 誰一人血の繋がらない三人の家族と彼等の生きた崩壊した家庭、そこから受けた心を締め上げられるような苦悩、苦痛。 血の繋がりこそが呪縛となり、それぞれの抱える問題とそこから繋がる絆と不確かな存在となった青年と少年の物語―― ※BOYSFANコン参加作品・お題フリー ※暗いです
読了目安時間:1時間38分
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