とある遊郭に住まうのは、華のように咲き誇る見目麗しい花魁。 囲われた華籠の中で思うのは、叶わない願いただ一つ。 言葉を交わし、身体を重ね、空虚な心のままその日を生きていた花魁の前に、ある日、一人の男が現れる。 一之丞白秋と名乗ったその男は、ある噂を耳にしてやって来たと口にした。 数に限りのある花魁の中でも、ひときわ雪女のようだと名高い見目麗しい花魁。 その者に気に入られた者は、“神通力”でも手に入れたかのように大出世を遂げるという。 その真実を確かめにーー出世に目がくらんだのだと笑う男を前に、花魁は囁く。 「これでも、人を見る眼くらいはありなんし」 妖艶に笑い、身を寄せる花魁ーー『雪姫』。 その『真実』を目の当たりにしながらも、一之丞白秋は雪姫のもとへと通い続ける。 「雪姫」 大きく骨ばった掌。 空気に沈むような、低い聲(こえ)。 何者をも射殺すような切れ長の眼。 雪姫(じぶん)とは何もかも対照的な相手。 幾度となく言葉を交わし、褥(しとね)をともにし、心を通わせる内に、 今までの武左とは違う白秋の姿に惹かれ、心を開き始めた雪姫。 そんなある日、白秋の口から問われたある言葉にーー雪姫の心はかき乱される。 「其方は、何に為りたかった」 かつて抱いていた思い。 手の届かない願い。 その全てを胸の内に宿しながらも、自分に言い聞かせるように、雪姫は呟く。 「今はただ…白秋と居られれば充分でありんす」 叶わぬ願いを口にする雪姫の真実(ほんしん)を知った時、一之丞白秋は動き出すーー。 ③お題:フリー。
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