これは、絶対的な忠誠と愛を尽くしたがる少女と、不可解な謎に包まれる少女の気持ちに応えようとする少年の、想いの物語。 林道綾珂(りんどう りょうか)は、高校入試目前のある日、中学時代二年近くかけて書き綴った小説を炎の中に葬り去った。 凄惨な中学時代の記憶にまみれた、黒歴史と化したそれを燃やすことで、つらい過去と決別できると信じて。 高校入学後、クラスメイトに『C組のアイドル』と陰で囁かれる美少女がいた。 彼女の名前は桜花彩理(さくらばな さいり)。 美少女とはいえ、綾珂は彩理を敬遠していた。 彼女の名前が、昔葬り去った黒歴史に出てくるヒロイン・サイリと同じ名前をしていたから。 入学後ひと月もしないある日の下校時、綾珂は『リンドウ』を探すチンピラに追いかけられる。 ナイフをちらつかせて発狂するチンピラに追いつかれそうになったとき、クラスメイトの彩理に救われる。 どうにか逃げ延びたあと、彩理は綾珂の手を引き、なぜか綾珂の住むアパートへと向かう。 そこで彩理は自身を、綾珂の黒歴史に出てくるヒロインそのものだと言い張った。 綾珂が知りうる、そのヒロインの特徴を添えて。 そんなまさかと疑う綾珂の傍ら、彩理は突如綾珂の身の回りの世話をし始める。 料理、登下校のボディガード(遠巻きに)、部屋の掃除、洗濯……。 彩理いわく「わたしは綾珂さまの奴隷ですから」。 やがてある日、事件が起きる。 彩理、幼馴染、クラスメートの三人とショッピングモールに遊びに行った休日明けの登校日。 クラスメートと幼馴染が揃って学校に来なかった。 連絡してもまったく応答がない二人。 ようやくクラスメートから返信が来たと思えば、深夜の学校に呼び出される。 なにか怪しいと思いながら行ってみれば、クラスメートだけでなく、気絶した幼馴染を担いだチンピラまでもが姿を現した。 はたして桜花彩理は、本当に綾珂の黒歴史に出てくる奴隷ヒロインなのか。 ぐいぐい迫ってくる彩理に最初は辟易とする綾珂だが、たとえ黒歴史のヒロインだろうとそうでなかろうと、彩理の想いに答えるべきではないかと考えを改め始める――
読了目安時間:3時間19分
この作品を読む