ここは楽園、高齢者が増えすぎた島国の中の島。向日葵と風見鶏が少しばかり有名なだけの小さな島。 しかし案外そんな島にここ最近学生が集まってきている。 島の中にある巨大な御那学園(ごながくえん)が入学金と授業料免除で生徒の獲得を始めたからだ。 学校側は国の補助があるとしても確実に赤字である事は間違いないハズだった。 しかし、高齢化社会がピークにきているこの国において若い世代は皆平等の教育を受けるべきであるという創始者の意向による物だった。 未来を見据えた素晴らしい教育として大きく評価された。学園も拡大し、それに便乗して島自体も雇用が増え活気が出てきた。 今まさに闌と言っていい状態であった。 それ故楽園島なんて呼ばれるようになっていた。 この島は盛りの時を迎えてしまっているのかもしれないが、この国……いやこの世界は緩やかに終わりを迎えようとしていた。 温暖化? 戦争? 水の枯渇? またそれらによる環境汚染? 予想だにしない事から人類は滅びようとしていた。 それは女性が生まれない。種の存続が出来ないという事。これは未曾有の事態だった。 後回しにし続けた結果取返しが付かなくなり国が滅びゆくように確実に世界を殺していく。 神の悪戯か、はたまた天の意思なのか、今現存する女性との交配でも女子が生まれる事はなかった。もちろん各国も手を打たなかったわけではない。 クローンによる女性を誕生させる。 これが悉く失敗していた。女性は保護動物のように扱われ、公共の目に触れられる事はなくなった。 そんな楽園島も例外なく女性が殆どいない、御那学園に来る者も男子生徒ばかり、中には女子の制服を着て女子と見間違うような生徒もいたりするが例外なく男子しかいない。 殆どという意味だが、この島には一件のカフェがある。そこには肩幅が小さく、胸板は熱くないのにふくよか、長い髪に甘い香りがする人物がいる。 喫茶シールズの店長。 島で一番学生たちに人気のスポットでもあった。 三十手前らしく昔大けがをしたとかで眼帯を常につけているが大人の女性、その魅力は男子生徒達にはあまるものだった。 店長の名前は木曾アトラ(きそあとら)自称永遠の十六歳。 彼女は彼らに美味しいコーヒーを出し、笑顔を絶やさない。そんな彼女の店にまた一人の男子生徒が入店する。
読了目安時間:2時間39分
この作品を読む