【参加テーマ】お題フリー 彼女いない歴十年のうだつの上がらない大学生のボク。 ある日ひどい夕立に会い、寂れた喫茶店の軒先に雨宿りする。 その時、中から顔を出した少女に半ば強引にお客にされてしまう。 他に客がいないことをいい事に、その少女ーーアユミは向かいの席で弾丸トークを始める。 彼女はこの店の従業員で、マスターが母親だった。 再会を約束させられ、何度か足を運ぶようになったボクは次第に彼女に惹かれていく。 アユミの方もボクの事を悪くは思っていない様子。 気を良くしたボクは、思い切って交際を申し込もうと決意する。 練習を重ね、しどろもどろになりながらもボクは告白に成功する。 だが、なぜか彼女は下を向いて悲しそうな顔をしてしまう。 自分のせいだと動揺するボクに、アユミは衝撃の告白をする。 実は彼女は「男の娘」だった。 気が動転し黙り込んだボクに、アユミは何度も謝罪の言葉を口にした。 騙すつもりは無かった…… あなたに嫌われたくは無かったから……と その姿を見てボクの心の声が問いかける。 お前は彼女が女の子だから好きになったのか、と。 やがて自分が好きになったのは、アユミという人間に対してだと気付く。 ボクは彼女に改めて手を差し伸べ交際を申し込む。 アユミは驚きながらも、満面の笑みでその手をとった。 相思相愛を確認したボクは、彼女から女装の経緯を聞かされる。 家庭環境の影響かと模索するボクに、母親であるマスターの意味ありげな視線が注がれる。 その時ボクの中に、あるひらめきが起こる。 当初から父親のことを語りたがらなかったアユミ…… 母一人子一人だと勝手に思い込んでいたボク…… 実はいないのは父親ではなく、母親の方? じゃあマスターは…… それがアユミが女装に目覚めた本当のきっかけなのでは!? 動揺するボクに、肯定するような眼差しを向けるマスター。 だがボクはすぐさま思い直す。 もはや何があろうと構わない。 そんな事でアユミを好きな気持ちは揺るがないと確信する。 降りしきる雨の中、マスターの優しい眼差しを背に、ボクとアユミは幸せなディナーへと出かけるのだった。
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