徳川家三代目将軍となる竹千代(家光)の心は荒んでいた。元来の吃音のせいで傅役や小姓とも心を通わせられず、幾人に恵まれていても己が心の内をさらけ出せない鬱屈とした日々が続いていた。ある日、やむを得ず人を斬った折りから竹千代は人斬りの快楽に目覚めてしまう。夜な夜な江戸城下をさまよい人を斬り続ける竹千代。お付きの小姓たちは止めることも諫めることもできなかった。そんな竹千代の前に十文字槍を振るう男が立ち塞がる。 「宝蔵院流高田又兵衛吉次! 弟子の仇を討ちに参ったぁ!」 現代まで受け継がれる宝蔵院流高田派槍術の創始者、高田又兵衛。 『槍の又兵衛』として日ノ本に名を轟かせた彼の者こそ、徳川三代目将軍家光が最後に会いたいと焦がれた男である。
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