黒い雪が降った。人をボロ屑のように変える天災だ。 その昔、大陸は数十年に及ぶ長い冬に見舞われた。 《冬の檻》と呼ばれる長い冬は、不思議な力を持った男が育んだ大樹によって打ち払われた。世界樹と名付けられた大樹は、恐ろしい魔獣をも追い払い、大陸に安寧を約束した──そのはずだった。 現代になり、再び大陸は《冬の檻》に投獄されてしまった。 世界樹の創造主の末裔であるエコウ・チェンバースは、二度目の《冬の檻》の謎を探るため、カーディアーカ王国が統治する大陸中を旅していた。 ある日、大陸の南へ渡る汽車でエコウは、仮面憑き《グリームニル》と呼ばれる青年オルクと出会う。世界樹の庇護下にある王国に反乱を起こし、今では迫害に合う一族。 謎の糸口をオルクに見出したエコウは、彼と行動を共にする事にした。 その最中、魔獣が再び大陸の覇権を握らんと、軍勢規模で侵攻を開始。 戦いに巻き込まれたエコウはオルクの手によって何とか逃げ延びる事が出来たが、王国は南側の領土を魔獣に奪われてしまった。 この出来事を契機に、エコウは世界樹がもう一柱必要であること、王国が世界樹を独占する為に二本目の存在を隠蔽してきた真実を知った。伴って、世界樹の力が弱まり二度目の冬の檻が顕現したことを。 南側の人間は魔獣と、黒雪がもたらす病によって死滅する運命にあった。 王国は南側を切り捨てたが、程なくして一本目の世界樹も限界が近いことが判明。 生き残る道はただ一つ。歴史に隠蔽された二本目の世界樹を育むこと。 オルクの故郷に残された世界樹の苗木を求め、王国はエコウを含めた大部隊を結成し、魔獣と黒雪に支配された南へと向かった。 自然の猛威と、魔獣の脅威の前に多大な犠牲を払いながらも、エコウはオルクと共に世界樹の苗木に辿り着いた。 エコウの命を糧にしながらも一度は生育に失敗したと思われたが、しかし世界樹は一対の完全なものとなり、再び大陸に春をもたらした。
読了目安時間:7時間19分
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