瑠璃色の宝石〜記憶をなくした少女の契約と正体の謎〜

読了目安時間:6分

祭事の補佐 5『エミュリエールの弟』

 夜中6の(0時)過ぎ。  やれやれ、今日は遅くなっちゃったな。  一人の男が自分の(やしき)に帰ってきた。廊下を歩けば、自動的にロウソクがつき、通り過ぎて行った後、消えた。 「お帰りなさいませ、我が主人(あるじ)」 「あぁ、うん」 「今日は遅かったですね。食事はお済みですか?」 「あっちで、済ませたよ。お風呂だけ……」  途中で会った執事を引き連れ、部屋まで来ると、机の上に積みあがった手紙を見て、男はため息をついた。ほとんどが、夜会の招待状と、お茶のお誘いだ。 「また……()りもせず、よく送ってくるよ」 「ご主人様は、とても、モテますからね」  執事の言った事に、カラカラと男は笑う。  数年前まで、ここには4人の家族が暮らしていた。だか、ある事件をきっかけに、今は男だけが、この邸の主人として存在していた。  随分(ずいぶん)(さび)しくなったけど、僕は、まだ誰かを妻として迎えるつもりはないんだよね。  男はそう思って、来ていた外套(マント)を外し、執事に渡していた。 「あれ?」 「大聖堂からですね」  手紙の中に、珍しいものを見つけると手にとって開いてみる。 「どうされたのでしょう?」  男は、口に手をあてて、手紙を読んでいた。 「……ごめん、ちょっと、出かけてくる」 「今からですか?」 「なんか、急ぎみたい」 「そうですか……エミュリエール様に、よろしくお伝えください」  男は、脱ぎ捨てた外套(マント)を、また羽織(はお)り、窓の外にケリュネイアと呼ばれる、鹿(しか)型の(けもの)を召喚した。 「少し、遅くなるかも知れないから。先寝てていいよ」 「お待ちします。それが、わたくしの役目ですからね」  男はにっこり笑った。  手紙の送り主のエミュリエールは、男の兄だった。血こそ(つな)がってはいたが、ここ何年も話もしていない。できれば、自分を頼ることは、よほどの事が無ければしたくなかった(はず)だろう。 「余程(よほど)のこと……ね」  澄んだ冷たい空気で、星が(またた)いている。雨風(あめかぜ)よけの魔術を使う。男は、真冬の夜空の中、月明かりに照らされて、()けていった。            ※  時間は真夜中6の刻半(夜中1時)になる。  エミュリエールが、部屋で分厚(ぶあつ)い本を読み、調べ物をしていた。  ガチャリ、と突然、扉が開く。  入ってきた人物を見て、エミュリエールは、ボトッ、と手に持っていた本を落した。 「手紙は出したが……さっきだぞ? いくらなんでも早くないか? エリュシオン」  エミュリエールは苦笑いしていた。 「なんか、急ぎみたいだったからさ」  2人は双子のようによく似ている。エミュリエールと同じ金髪を、同じように三つ編みに結び、唯一違うのは、瞳が紫色をしているところだった。 「久しぶりだね、兄上」 「あぁ」  エリュシオンが目を細め、目尻が下がる。エミュリエールは、まるで、鏡を見ているかの様に思った。 「夜も遅いからさ、あまり、長く話するつもりないけど、特殊な瞳で、隠したいって話だよね?」  エミュリエールが、弟に、お茶を()れる。ミロ(りんご)の香りが部屋に広がった。 「そうだ、それと、魔石を持っていた。出来れば、素性(すじょう)も分かるといいんだが」 「すごい、そんな子、孤児にいるんだ。今呼んでくることは出来ないの?」  エリュシオンは、とても、興味があるようだった。 「一刻前に、私がまじないで眠らせた」 「えぇ……残念だなぁ」  エリュシオンが、少し残念そうな表情(かお)をして、頬杖(ほおづえ)をつき、口を()らせた。前と変わらない、弟この仕草(しぐさ)に、エミュリエールが笑いを(こぼ)す。  2人は別に仲が悪いわけではなく、ある事件のせいで、疎遠(そえん)になってしまっただけだった。 「出来れば、このまま役を続けさせたいと思っているんだが……」 「うーん……瞳のことは隠しておいた方がいいと思うよ? 希少なものだと思うし 」 「隠すことさえできれば、何とかなるんだが」 「隠すことは、できると思うよ?」  エリュシオンは、こめかみあたりで、直すマネをした。 「眼鏡か」 「そう。瞳の色を変える魔道具なら、たぶん、作れると思う。でもさ」  彼は両手で顔を支えて、悪戯(いたずら)っぽく、にっこりとした。 「条件があるよ」 「そう来たか」 「もちろん、そんな悪いやつじゃない」  エミュリエールが(ひたい)を押さえ考え込んでいた。 「あまり不利なものなら、のむわけにもいかない」  サファは、私が司祭になって、()められたことではないが、特別気にかけており、情も()いている。それに、弟は、とても頭が切れ、そこに絶対の利益がなければ、こんな事は言ってこない。  利用されるのではないか?  疑う気持ちを、エミュリエールは消せなかった。 「簡単だよ。僕がなんらかで命を落とすような事があれば、兄上にうちに戻っていただく。その代わり、眼鏡だけじゃなく、その子の保護と、追及(ついきゅう)は、今後も協力するよ」 「……は?」  エリュシオンは、何やら物騒(ぶっそう)な事を言い始めた。エミュリエールの口から、思わず間の抜けた声が出た。 「お前、死ぬのか?」 「やだな、勝手に殺さないでよ。病気でもないし死ぬ予定も今の所ない。こういうのはさ、建前(たてまえ)みたいなものが必要だろうし、僕も歳をとって、色々考える事もあるわけ」  エミュリエールが(いぶか)しむように見ると、エリュシオンは、ソファの背もたれに寄りかかった。 「何を考えている?」 「そんな顔されたら心外だなぁ。何年も頼りのなかった兄上が久しぶりに手紙をくれて、しかも相談事だなんて嬉しいだけだって。そう警戒しないでよ」  エリュシオンは、いつもしていたように、カラカラと笑い、肩を竦めていた。その様子からは、弟の思惑(おもわく)は読み取れなかった。  いなくなる予定はない。  それなら…… 「今度、彼女はシスティーナに、唄の依頼をしに行くんだ。それまでに眼鏡を準備する事はできるか?」 「交渉成立、かな? 7日ばかりあれば出来るよ。とにかく、今度その子に合わせてよ」  エリュシオンは口に人差し指をたて、顔を傾けた。 「祈念式が終わるまでは、専念させたい。あの子は随分、人見知りだからな」 「ふーん……ま、いいや。だけど、『暴走』には気をつけて」 「分かった」  『暴走』とは、彷徨(ほうこう)の時期に、感情の起伏(きふく)で起きやすい、魔力の制御不能な状態をいう。  まだ、完全には信用してないまま、エミュリエールはお茶を飲み()し、(うなず)いた。  もう夜中も夜中。1の(夜中2時)を過ぎていた。とりあえず、今回はここまでで話は終わることになった。 「そうだ、兄上、その子の瞳は、何色だった?」  エリュシオンは窓枠(まどわく)に足を掛けて、ケリュネイアに乗ろうとしていた。  吸い込まれるような、真っ青な瞳を網膜(もうまく)に映す。 「瑠璃(るり)色だ」 「……了解。今度みせてね」  エリュシオンが、不思議そうにエミュリエールの顔をじっと見ていた。それは、兄が昔のように、穏やかな笑顔を浮かべていたからだった。  夜空を駆けていく。寒いはずなのに、気にならなかった。  貴族の見栄(みえ)や、位を気にする横柄(おうへい)な人間を、相手する退屈な毎日に、うんざりしていた。  なんだか、楽しみだよ。  エリュシオンの口元が、薄らと、()を描く。  彼は、これから起こる出来事をおもい描き、期待し、気分はすっかり高揚(こうよう)していた。

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  • 女魔法使い

    宇宙埜桂子

    ビビッと ♡500pt 2021年4月4日 20時33分

    《エリュシオンが、不思議そうにエミュリエールの顔をじっと見ていた。それは、兄が昔のように、穏やかな笑顔を浮かべていたからだった。》にビビッとしました!

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    宇宙埜桂子

    2021年4月4日 20時33分

    女魔法使い
  • くのいち

    天野すす

    2021年4月4日 21時56分

    昔は、その笑顔を向ける相手は、自分だったのに。そんな相手が兄にできたのか? っていう、ちょっと嫉妬のある意味でとっていただければ!! コメントありがとうございます。 いつも鼻血が出る思いですヽ(´▽`)/

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    天野すす

    2021年4月4日 21時56分

    くのいち

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