瑠璃色の宝石〜記憶をなくした少女の契約と正体の謎〜

読了目安時間:6分

暴れ牛と夜明けの唄 1『エリュシオンが借りてきたもの』

 季節は4の(8月)  日差しが特に強くなる時期である。  今日もまた、始まるのか。  ここは、フェガロフォト国。アクティナ領にある、王城『アルトプラス』  まだ、午前中だというのに、アシェルは騎士団の執務室で、暑さと、忙しさに(つぶ)れていた。  扉が開く。入ってきた人物は、突っ伏しているアシェルの前で足を止めた。 「おい! だらしないぞ。アシェル=フェガロフォト王子殿下」  アレクシスが、腰に手をあてて、見下ろしていた。 「忙しすぎるだろ……」  俺は修学院に通っている。今は夏休みだ。だが、遊んで過ごすという時間なんて、俺にはない。  休みに入った途端、国王が決めた国務と、机仕事が、待っていたとばかりに、なだれ込んでいた。  それと、いつ来てもおかしくない、魔獣の討伐。あの問題はまだ……解決していなかった。 「システィーナは、まだダメだったのか?」  アレクシスが聞く。  祈念式のあと、出現した魔獣は、倒すのに苦労はなく、難を逃れていた。それでも、やっぱりトラヴギマギアは必要で、他のトラヴィティス(唄い手)に頼んでいたのだが……  どいつも、1度は引き受けてくれるものの、自分には無理だ、と言って、2度目はなかった。  それで、困った俺は、ここに来る前に、国王陛下のところに寄り、なんとか、システィーナの保護を解いてもらえないかと、掛け合う事にした。  修学院で、魔術や剣術を学ぶのは、討伐に参加するためだというのに。まったく…… 「まだ事件が解決してないから、ダメなんだと」 「困ったなぁ」  アレクシスが、笑いながら机の上の書類を取っていく。 「お前、本当にそう思ってるのか?」 「こう見えても、ちゃんと思ってるぞ? それに、騎士団からもエクシューロス病が出たしな」  ああ……その事もあったな。ほんと、()んだり()ったりじゃないか。  『エクシューロス病』とは、段々と魔力量が少なくなる不治(ふじ)の病。  人によって進行具合は違うものの、最後はみな、水涸(みずが)れで死んでいく。『死神の宣告』という名前でも呼ばれている  アシェルは顔を横にし、アレクシスの方を向いた。  コイツは俺の側近の1人。アレクシス=ヘイワード。刈り上げた赤い髪を、逆毛にし、ツンツンした頭を自分で触っている。  しかし、いつ見てもコイツはデケェな……  その(たくま)しい腕に()められた、やや不釣り合いな腕輪に目をやる。  コイツが使うのは、体と同じくらい大きな大剣。その、がっしりとした体から落される一撃は、爆発した、とよく間違えられるほど重かった。  ん? そんな剣どうやって持ち運ぶのかって? 確かに、肩に(かつ)ぐのも邪魔だろうな。だから、普段は、あの腕輪にしまわれているんだ。  歳はたしか、27だったか? 司祭のエミュリエール、薬室のエーヴリルとは同級生で、今も親交は続いているらしい。 「誰か良いやつ居ないのか?」 「なんだ? 婚約者の話か?」 「ふざけんな」  アシェルは、そこにあった、丸めた紙くずをアレクシスに投げつけた。 「そりゃ、お前。いたら頼んでるに決まってるだろ? わはは」  アレクシスは豪快に笑い、自分の席に座った。 「クソぉ」  身体(からだ)を起こして頬杖をつくと、アシェルは口を(とが)らせた。 「全く。笑い事じゃないんだぞ?」 「それくらい、俺だって分かってるさ。だがなぁ」  彼は、手元にある紙に、目を通し始めた。仕方なくアシェルも、書類を手に取っていると、エリュシオンが扉から顔を覗かせた。 「あれー? システィーナ、またダメだったの?」 「いきなりだな、おい。(えぐ)ってくるなよ……」  コイツはエリュシオン=R=バウスフィールド。もう1人の側近だ。男の俺から見ても、かなりの美形で、俺と歳も近い。  ずいぶん軽い口調で、ふざけたヤツかと思うだろ?   だけど、最年少で魔術の使い手の称号(しょうごう)をもらってるほど、スゲェ頭のいいヤツなんだ。  たまに、エリュシオンが、魔法陣を改造しているところを見かけると、それが、本当なんだな、とつくづく思ってしまう。  水をひと口飲み、アシェルは頭を()いた。 「そろそろ不味いよねえ、次行くの、決まってないんでしょ?」 「もう断れない仕組みにすればいいのに……あー暑いな!」 「それは、難しいだろ?」 「そうだね、我が国では、トラヴィティスは貴重だからねぇ」  そう、貴重なのだ。  だから、国も彼らを失わないよう、トラヴィティス達にはそれなりの待遇がされている。  その一つが、『二遍(にへん)拒否』という権利で、2回目からのトラヴギマギアの要請は、1年間、(こば)むことができる、というものである。  今の時期は、休暇に入る者も多い。討伐に当たる人数が少なければ、怪我や死ぬ可能性だって高くなる。  参ったな…… 「どこかに、落ちてないか? トラヴィティス」 「やだ……とうとう、アシェルがおかしな事、言い始めたよ。どうしよ、アレクシス」 「だが、実際そう思いたいよな。不安要素は多いのに、どれも解決が出来ないからな」  アレクシスは、うんうん、と(うなず)いた。  ただでさえ切歯(せっし)扼腕(やくわん)しているのに、ベタベタして、ムワッとする気候が(いら)立ちを増長させる。  アシェルは窓辺に立ち、訓練している騎士を眺め、腕を組んだ。  少な……選ぶ余裕もないだろ。あれじゃ 「だいぶ、休暇に入ってるね」  エリュシオンが横に来て、同じように外を見ていた。 「次の討伐は……無しで行くか、誰かをムリやりにでも連れて来るかだな」 「このまま、魔獣が出ないことを願うばかりだな。ひと月乗り切れば、状況も少し変わるだろ?」  本当にその通りだ。しばらくは魔獣も夏休みでいいだろ。  窓枠(まどわく)に肘をつくと、熱風で夜闇(よるやみ)の髪が揺れる。アシェルは、そう、思って、青月(せいげつ)のような目を細めた。  だが、その願いは、呆気なく(くだ)かれる事になった。  魔獣討伐の要請が入る。それは、その日の夕暮れ時のことだった。  アシェルは装備を身につけ、アレクシスと執務室にいた。だが、エリュシオンは討伐要請が来てすぐ、指の背で唇を撫でたあと、部屋を出て行ってしまった。 「エリュシオンはどこ行ったんだよ!」 「いつもの事だろ、行く頃には来るさ」  声を荒げたアレクシスを(なだ)め、アシェルは淡々と準備を続けていた。 「遅くなってごめんー」  ほら、帰ってきただろ?  アシェルは声のした方に顔を向け、驚きのあまり、動きを硬直させた。 「……ちょ、おま。その子どうした?」 「困るなぁ、と思って、少し借りてきた」  借りてきたって……  アシェルは口を押さえた。  エリュシオンは少女を抱えていた。しかも…… 「エリュシオン、その子、孤児じゃないか」  アレクシスも気づいたらしい。灰色のワンピースには、見覚えがある。エリュシオンが、少女を降ろすと、彼女は少し前に出て頭をさげた。  もこもこした長い灰色の髪が、肩から落ちる。(うつむ)いた顔には、眼鏡がかけられ、伏せている(まつげ)からのぞく瞳は、澄んだ(あお)をしている。  これが、孤児?  流れるような彼女の動作に、アシェル達は、しばらく口を開けたまま、言葉をなくしていた。

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