瑠璃色の宝石〜記憶をなくした少女の契約と正体の謎〜

読了目安時間:5分

暴れ牛と夜明けの唄 9『気の抜ける寝言』

 野営地の真ん中に建てられた、テントの中に入り、エリュシオンが、サファを、毛布の上に寝転がしていた。  アシェルが、サファの顔を覗き込んでいる。 「女性の寝顔なんて、じっ、と見るものじゃないよ」 「よく寝てられるなと、思って。起きるのか……? コレ」 「うん。一応考えはある」  目を合わせたエリュシオンが、ニッと笑った。 「ま、いいや。とりあえず、始めるか?」  ここには、俺たち3人の他に、後から来たセドオアが、さっきから何か言いたげな表情(かお)をしていた。 「あのぅ、殿下。その子は?」  まったく、騎士団の最年長だと言うのに、好奇心旺盛なおじ様である。セドオアは、寝かされたサファを眺めて、鼻の下を(こす)っていた。 「セドオア、彼女が、前に言ってた、祈念式で魂送りをした人物らしい」 「なんと!! こんな幼い子がですか?!」  セドオアは、手を打ち鳴らす。アシェルが笑い声をあげ、サファがここにいる経緯(いきさつ)を伝えた。 「なるほど……孤児ですか。それなら、易々(やすやす)と知られてはいけないでしょうな」 「お前が、話のわかるヤツで助かるな」 「はっはっはっ! それほどでもありますな」  うんうんと頷き、セドオアが簡易的な台に、周辺地図を広げた。4人で、それを覗き込む。 「うまく、街から引っ張り出せたことを考えると……」 「まぁ、この辺りで戦う事になるよね? 僕はあまり攻撃には協力できないだろうけど」  エリュシオンが地図を指差し、ファクナスを誘導する道筋をなぞった。 「魔法が効かんからな」 「動きを止める、簡単なお仕事」  ふふん、と鼻で笑ってるエリュシオンが腕を組んだ。 「足場くらい出せるんだろうな」 「えぇ、どうしようかなぁ」 「お・ま・え!!」 「痛い痛いっ! もうっ、乱暴なんだから」  アレクシスが、後ろからエリュシオンの首に、腕を回していた。 「セドオア団長!!」  外から伝達係の声が聞こえる。4人は一斉に入り口に目を向けた。アシェルがセドオアに目を向けると、彼が頷き、入り口に向かった。  ボソボソと外で話している声が聞こえる。 「あらら、無理だったかな」  アレクシスの腕を掴んだまま、エリュシオンがポツリと呟いた。  その可能性は高かった。だが、連れてきた先で『オクトソロス』を使えなければ、攻撃を安定して与えられない。でも、それ以前に目標地点に誘導できなければ。 「背に腹は変えられないか……」  セドオアが戻って来ると、ファクナスを壁の外まで誘導したのはいいが、出てすぐのところで苦戦しているとの事だった。  その場で戦うのも、あり、なんだろう。だけど、街への被害を考えない訳にはいかない。ここは悩みどころだ。  眉を寄せ、額に手をあてた。 「エリュシオン。連れてこれるか?」 「えぇ!! 僕? ……いいけど?」  なんだ、いいのかよ。  アシェルがまだ、迷っているような笑顔を浮かべると、アレクシスが背中を叩いた。 「迷うところだな」 「そうだねぇ。でも、さすがの僕も、ファクナスの挑発をしながらだと」 「分かってる」  『オクトソロス』は使えない。それは、残りの奴らでどうにかするしかないだろうな。 「……エミュリエール様、私は枕ではありません!」  そんな、緊迫した中、突然声のした方に目を向けると、サファが、ころん、と寝返りをうった。 「……枕ってなんだ?」 「あはは、さぁ? なんだろうね」  エリュシオンが腹を抱えて笑っている。 「むにゃむにゃ……」  呑気(のんき)に。と言いたいところだが、正直、気が抜けた。  アシェルは硬直させていた息を、深く、柔らかく吐き出し、口許をゆるめた。   「ほほほ、これはまた、随分と可愛らしいですな。ところで、彼女は、1人でここに置いとくのですかな?」  あ…… 「そういえば、そうだよねぇ」 「……そこまで、考えてなかった」 「出番は倒してからなんだろ。それまで寝かしておいたらダメなのか? 見えなくなってるんだろ?」  アレクシスが顔を傾ける。 「いくら『隠蔽(いんぺい)』がかかってるといっても、1人にしておくのは、さすがに心配だな。借りてきているのは、エミュリエールからだぞ?」  しかも、(こころよ)くではなさそうだ。だが、そうなると、見ていられる人間は限られている。 「俺は、剣を振り回しながら、コイツを見てるのは無理だぞ?」 「それなら、私が見ていましょうか?」 「いやいや、セドオア。お前だって、戦力だからダメだろ」  アレクシスが首を振った。 「というか。考えたら、見てられる人って1人しかいなくない?」  3人が一斉に、アシェルを見た。 「え? 俺かよ」  それもそうか。  俺は、指揮はとっても、国王陛下の命令で、戦いに参加する事は許されていない。  しかし、エミュリエールも大変だな。  俺は、こういう立場だからか、初めて会う人物が、どういう人間なのか、察することが得意だった。彼女は、パッと見はとても大人しそうに見えた。だけど、よく見ると、何をしでかすか分からない怖さがある。  性格の為か、生い立ちのせいか? それは、分からない。だが……  近くで見張っておけるなら安心だな。  どこからか飛んできた夏虫が、エリュシオンに飛びつこうとすると、バチっと音がして落ちていった。 「久しぶりですな、この感じ」 「セドオア、あんまり耐性ないのは近づけるなよ。(すく)んで動けなくなるからな」 「ほほ、街の救助にでも当てておきましょう」 「エリュシオン、イストリアの抑制時間が切れるのはいつだ?」  彼は、目と口を横に細くひき伸ばすと、顔を横に倒した。魔力が漏れ出て、あたりに冷気が(ただよ)う。 「抑制時間? もう、とっくに切れてるよ」  さすがだな。というか、お前、ちょっと怖いぞ。 「よし、行くぞ」  外套(マント)(ひるがえ)し、テントを出ていく。さっき落ちた夏虫が、しばらく足をバタつかせる。だが、戦闘が始まる頃には、もう、ピクリとも動かなくなっていた。

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