夢が消えた日

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夢コンには合わないかもしれないし、かなり重めでハッピーエンドでもないので、そう言うものが苦手な方は避けるようにお願いします。

夢が消えた日

深夜の待合室。 昼間のゴチャゴチャとした雰囲気とは違う誰もいない待合室は明かりも少なくて、そこに一人で座る僕は、今にも闇に溶けてしまいそうなほどに心細かった。 「あのさ、話があるんだけど」 「うん? どうした?」 家に帰るとそんな改まった顔をした彼女に出迎えられた「ちょっと座ってくれる?」っと彼女はそう続けてリビングテーブルの椅子に僕を座らせると、彼女は床にしゃがみ込むようにして、僕の手を両手で掴んで僕を見上げた。 「今日ね、病院に行って来たの」 「えっ? どこか悪いの? もしかして・・・・・・」 僕はそこまで言って戸惑った。 彼女は母親を去年若くして亡くしている。初めは肩が痛いって言っていたらしい。僕らが遊びに行くと父はよく肩を揉んでいた。 乳ガン、ガンは身近なものだって聞いてはいた。だけどまさか自分の身内がなるなんて思っていなかった。幸い手術で腫瘍は摘出されて命は助かった。僕らは喜んだのだが、本当の戦いはそこからだった。 肉体的にも精神的にも辛い抗がん剤治療、大きくなったり、小さくなったりを繰り返す小さな腫瘍達、明日が見えない事の恐怖、肺に転移して、リンパに転移し、血管を回り、最後は全身を回った。 医者はあっさりとサジを投げる。残り半年を言い渡されて、家に戻された母はそこから4年間の戦いを戦い抜いた。ある日、母の部屋に呼ばれた。ベットの上で愛用のニットキャップをかぶり、驚くほどに小さくなった母は、その細い両手で僕の手を握り、娘をお願いねって微笑んだ。 その両手が今の彼女の手に重なって、僕はその先の言葉を続けられずに彼女を見ていた。 「あぁ、違うの、できたみたい」 「はぁ?」 「赤ちゃんができたの!」 そう言われて思わず僕の視界は滲んだ。なんて言って良いかわからずに「ありがとう」っと言いながら彼女を抱きしめた。 母のガンがわかってから、僕らは妊活を続けて来た。子供が欲しい、母に見せたい、いや、母の生きる希望になるのではないか? 孫がいれば笑う時間も増えるのではないか? っと話し合った結果だった。 長い事時間は掛かったが僕らの夢がやっと実を結んだのだ。間に合いはしなかったが、僕らは素直に喜んだ。 お腹が目立つようになり、マタニティーグッズを買い出すと、ベビーグッズも買い集めた。子供の名前を考えて、二人での会話も増えた。 その日も仕事を終えて帰り支度をしていた時にスマホが鳴り画面を見ると知らない番号だった。普段は知らない番号は出ないけど、僕は嫌な予感がしてそれに出た。相手は病院、僕は急いで駆けつけて、彼女の状態を知らされた。 「母子ともに大変危険です」 ドラマで聞くような無機質なその言葉の後で医者は「どうするのか?」って聞く。どうする? って何を? 急に迫られる決断、僕は頭を下げて「彼女を助けて下さい」っと言った。 そして、23時を迎える病院の待合室で、僕は祈りながら椅子に座っている。先程来た看護師は「奥様も助からない可能性がある事をご理解下さい」っと言って僕に何かのサインをさせた。 そこからは誰も来ない。ジーっと低い唸り声を上げている自動販売機だけが、僕の世界の音の全てで、僕の上だけつけられた蛍光灯はまるでスポットライトみたいだから、今にも叫び出してしまいそうだった。 そして、彼女を失うかもしれないとナイフを突きつけられて初めて、僕は神に祈った。心の底から出来る事なら二人を助けて下さい。って祈った後で、フフッて笑いが出た。 深夜の待合室で一人涙目になりながら小さく笑う。こんな時に夢を見たらダメだな。もう一度手を組んで僕は祈る。この場合、相手は神なのか? それとも、悪魔なのか? そんな事を思いながら目を瞑る。 彼女だけでも助けて下さい・・・・・・お願いします。

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