女神に選ばれて勇者になった俺。魔王を討伐しに行ったら、魔王は美少年でしかも小説を書いていた時の俺のファンだった。

読了目安時間:6分

エピソード:5 / 8

第五話! 無理だ! もう書けない!

「王都は女神の加護が強い場所。ハジ村と違って、認識阻害と魔力の抑制を用いてもボクの正体がバレてしまう。魔王の僕が勇者に近付いたとあれば、皆大騒ぎするだろうし」  ヒロの傍にいたい。近くで小説を読みたい。それを思えばマオは自らの素性が明らかになることも、些末な問題で、マオが少し本気になれば王都を焼き尽くして一山の灰に変えることも容易かったが、度が過ぎればヒロは二度と筆を取らなくなるだろう。  部下からも強く反対され、止む無くマオは手を引かざるを得なかった。 「それでもマオくんは、ヒロの物語を、諦めきれなかった」  確信を得たプリスは、かつて一緒に遊んだ友達だった頃と変わりのない目でマオを見据えれば、マオはほんの少し、恥ずかしそうに、はにかんで見せた。 「うん。僕が宣戦布告すれば、ヒロにいちゃんは勇者として、僕を倒しにくると思ったから」 「そんなことをしなくても」  あっけらかんと答えるマオに、女神から託された聖剣を杖にして、プリスに支えられるヒロが憤りと寂しさを綯い交ぜにした、苦い表情を浮かべて言葉を絞り出す。  友達として、ただ言ってくれれば良かったのに。  そうすればこんな悲しい再開も、ひたすら過去を弄られる死にそうな想いもしなくて済んだのに。 「でもアンタが月を落としたら、小説はもう読めなくなるんじゃ」 「そうだね。だからまだ月は動かしてないんだ」 「なんだと!?」  んん? と首をかしげるマッジョに、こともなげにマオが答えればホークが驚いて声を上げる。 「やっぱり……」  マオの話を受けて薄々勘づいていたプリスが小さくため息をついていると、マオは真剣な面持ちでヒロと向かい合う。 「ねぇ、ヒロにいちゃん。もう一度。もう一度小説を書いてよ。僕の、僕のために。あの無限に広がる虹のような、力強く大地に芽吹く青々とした命そのものにも似た、人間の物語を」 「比喩をふんだんに使った叙情的表現でジャンクフードを求めるんじゃねぇ」  ホークがげんなりとした様子で一言漏らせば、マオはヒロの方を見たままパチンと指を鳴らして暗黒大陸にだけ生息する全長百二十ミリを超えるジゴクススメバチの群れをホークとマッジョにけしかける。  後ろでギャーギャー悲鳴を上げながら蜂から逃げ回る二人を聴きながらヒロは、喉から出かけた言葉を何度も押し込んでは吐き出そうとしてまた飲み込み、そして……。 「無理だ、もう、書けない……!」  ヒロは、やや俯きながら小さく答えた。  書けるはずがない。  あの頃の自分が持っていた“熱”を、今は勇者としての使命を果たすために使っている。 「最後に書いたのは十年前で、あれから一度もペンなんて握ってない。時間が経ちすぎてしまってる……。マオが望むような物語を書く力は、俺には――」 「ヒロにい……」  マオが目を潤ませヒロの顔に両手を添え、目に焼き付けるように真っ直ぐ見つめる。  押し寄せる罪悪感に耐えきれず、ヒロは目を背けようとするが、思いの外強いマオの両手から逃れられず、只々マオの目を見るしか出なかった。  ごめん。  喉から声を発しようと、ヒロは目に溢れそうになるものを必死に抑えながら息を吸う。  バチンッッッ! 「熱っっっっづ!!?」 「マオくん!?」  右の頬に平手打ち。  続けてマオは返す手で左の頬にもう一発。  いきなり焼きごてを押し付けられたかのような鋭い痛みにヒロは悶絶して両頬を押さえて蹲る。 「ヒロにい。何か勘違いしていない? 僕はね、()()()()()()と言っているんだ」 「え……?」  ヒロが茫然としながらマオを見れば、マオが纏っていた日向のような優しさが消え、代わりに冷たい真冬の夜にも似た冷酷な気配を帯びていく。 「素晴らしい傑作を書いてなんて頼んでいない。削り取られ舗装され綺麗に整えられた、大衆が喜ぶような話を書いて欲しいんじゃない。続き、とにかく続きを書いてよ」  マオが口早に答えていくと、マオの語気は徐々に強くなっていき、先まで冷え切っていたマオの気配が黒い熱を帯びて激しさを増していく。 「『何があっても投げ出さない、諦めない、最後までやり遂げる』のが、勇者なんだろ? 尤もらしい言葉を並べて――未完成の作品を投げっぱなしにしていいと思っているのかよ!?」  マオが激情を露わにすればゴウッと風が吹き、その凄まじい迫力にヒロとプリスが怯んでしまう。 「確かにそうなんだけど、ほら、ヒロだって修行や冒険の連続で、そんな暇があったわけじゃないし」 「甘やかしちゃダメだよプリスねえちゃん。そもそも、作者(ヒロにい)の都合なんて、読者(ぼく)にとって至極どうでもいいことだからね。たまに勘違いしたヤツが『未完成だからこそ美しい』とかほざくけどそんなはすがないだろう!? どんな形であれ完成させた物語の方が何万倍も価値があるからね! 加えて僕は十年、十年もの間、生殺しにされたんだ! 千年の退屈すら霞むくらいの苦痛だった! 耐えきれなくなって二次創作(自炊)にも手を出してみたけど、原作(オリジナル)からでないと得られない栄養があってね! こっちはとっくに限界を通り越している! 少しでも申し訳ないと思うなら、無様でもいいから書けよ! 作家の中には没後に弟子にも書けるように体制作りをしたり、反魂術で蘇って続きを書いている人もいる。勇者だから忙しいなんて――いい訳にもならないんだよ!」  マオが溜まりに溜まった不満・うっ憤・フラストレーションを一気に解き放つ!  魔力を宿した叫びは魔王城最上階の外壁を吹き飛ばして王の間を吹き曝しに変えてしまい、マオ自身も、その姿を変容させる。  透き通るほど美しかった白い素肌を晒していた手は黒い鱗に覆われ、額の中心に隠されていた第三の目が開き、新たにもう一対のねじくれた漆黒の角が生え、黒い豪華なローブを突き破って四枚の大きな翼が現れる。  暗黒の竜の化身たるマオは、抑え込んでいた魔力を解き放ち、本来の姿である竜人へと変化を遂げた! 「なんか死闘(バト)る前から第二形態になっているんですけど!?」 「感情が極大(デカ)過ぎる上に拗らせてる……」  蜂の群れを一蹴散らし肩で息をしているマッジョとホークが顔を青くして、変身を遂げて浮遊するマオを見上げる。 「こっちはとっくにヒロにいと心中する覚悟をしているんだ! これでもまだ続きを書かないというなら、この世界そのものを完結させてやる! 僕の手でッ!!」  僅かに白い素肌を残すマオの頬から血の涙が流れ落ちる。 「ヒロ、もう限界だ! アイツのわがままのために世界を完結(おわ)らせるにはいかない!」 「こっちにはこっちの都合ってもんがあるっつーの! ヒロはしみったれた作家より、こっちの方がよっぽど様になっているしね!」 「……ああ!」  ホークとマッジョが武器を構えて戦う意志を示せば、ヒロも黒歴史(しょうせつ)で悶えていたことなどなかったように決然と立ち上がり、悲壮な面持ちのまま剣を構える。  戦うしかない。  今も尚、苦しみ続けるマオを救うには――これしかない。  勇者一行と魔王。両者が激突するのはもはや避けようがなく、ヒロが腹に込めた力を下半身に送り込み、地を蹴る力に変えて飛び出そうとする。 「――いい加減にしなさい、マオ!!」  一触即発の空気の中、プリスの凛とした声が響き渡った……。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


  • ブルーマーメイド

    比良坂

    ♡1,000pt 2022年8月21日 22時12分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    見事なお点前で

    比良坂

    2022年8月21日 22時12分

    ブルーマーメイド
  • 騎士

    ジンブレイド

    2022年8月21日 22時26分

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    続きをご期待ください

    ジンブレイド

    2022年8月21日 22時26分

    騎士
  • ブルーマーメイド

    比良坂

    ビビッと ♡1,000pt 2022年8月21日 22時12分

    《「こっちにはこっちの都合ってもんがあるっつーの! ヒロはしみったれた作家より、こっちの方がよっぽど様になっているしね!」》にビビッとしました!

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    比良坂

    2022年8月21日 22時12分

    ブルーマーメイド
  • 騎士

    ジンブレイド

    2022年8月21日 22時26分

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ありがとなの

    ジンブレイド

    2022年8月21日 22時26分

    騎士
  • あんでっどさん

    和三盆

    ♡1,000pt 2022年8月6日 22時11分

    マオ、渾身の早口! クソデカ感情、恐るべしですね……

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    和三盆

    2022年8月6日 22時11分

    あんでっどさん
  • 騎士

    ジンブレイド

    2022年8月6日 23時03分

    コメントありがとうございます。自分もマオくんにごめんなさいと謝りながら「両手いっぱいに〇の花」をプレイしています。次回もお楽しみに。

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ジンブレイド

    2022年8月6日 23時03分

    騎士
  • 兵馬俑

    来賀 玲

    ♡1,000pt 2022年8月6日 20時00分

    過激派過ぎるファンの思いでも、ちょっと書ける気がしないのもまた創作者……

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    来賀 玲

    2022年8月6日 20時00分

    兵馬俑
  • 騎士

    ジンブレイド

    2022年8月6日 21時42分

    強火が過ぎると……普通に引きますからね……。作者だって人間だもん。

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ジンブレイド

    2022年8月6日 21時42分

    騎士
  • ひよこ剣士

    東十条

    ♡1,000pt 2022年8月6日 19時21分

    マオくんがんばれーーーッ! こんなありがたいファンに剣を向けるのか勇者(作者)ーーッ! ……おっと。ついつい書き手の顔になってしまいました。ゆ、ゆうしゃがんばえ~(棒)。

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    東十条

    2022年8月6日 19時21分

    ひよこ剣士
  • 騎士

    ジンブレイド

    2022年8月6日 19時32分

    コメントありがとうございます。次回、プリスの人情裁きが下ります。

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ジンブレイド

    2022年8月6日 19時32分

    騎士

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 蒼空世界のメカ娘~レミエと神とあの空の話

    生意気最強メカ娘と往く空中都市の冒険譚

    2,057,671

    5,086


    2022年10月2日更新

    機械の四肢で空を駆けるメカ娘『奉姫』が人を支える空中世界『カエルム』 空の底、野盗に捕えられた奉姫商社の一人娘『アリエム・レイラプス』を助けたのは奇妙なAIと奉姫のコンビだった。 『奉姫の神』を名乗るタブレット、カミ。 『第一世代』と呼ばれた戦艦級パワーの奉姫、レミエ。 陰謀により肉体を失ったというカミに『今』を案内する契約から、アリエムの冒険が始まる。 カエルムと奉姫のルーツ、第一世代の奉姫とは? 欲する心が世界の秘密を露わにする、蒼空世界の冒険譚。 ・強いて言えばSFですが、頭にハードはつきません。むしろSF(スカイファンタジー) ・メカ娘を率いて進む冒険バトル、合間に日常もの。味方はチート、敵も大概チート。基本は相性、機転の勝負。 ・基本まったり進行ですが、味方の犠牲も出る時は出ます ・手足武装はよく飛びますが、大体メカ娘だ。メカバレで問題ない。 ※2020.3.14 たのの様(https://twitter.com/tanonosan)に表紙およびキャラクターデザインを依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます ※2020.8.19 takaegusanta様(https://twitter.com/tkegsanta)にメカニックデザイン(小型飛空艇、十二姫装)を依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます ※2021.9.17 Gen様(https://www.pixiv.net/users/1479993)にキャラクターおよびメカニックデザインを依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます ※2022.8.17 ドズミール様(https://www.pixiv.net/users/12972349)にキャラクターおよびメカニックデザインを依頼・作成いただきました。この場を借りて感謝申し上げます

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:35時間13分

    この作品を読む

  • 異世界に転職するなら

    異業種に転職するなら

    1,300

    0


    2022年10月5日更新

    異業種への転職を支援するエージェントにも種類がある。 ブラフマンが運営するエージェンシー、ブラフマーエージェントが案内する転職先は異世界ばかり。 転職エージェントとしてブラフマンの元で働く25歳、フェイトのお仕事には毎回面倒が待っていた。

    読了目安時間:43分

    この作品を読む