女神に選ばれて勇者になった俺。魔王を討伐しに行ったら、魔王は美少年でしかも小説を書いていた時の俺のファンだった。

読了目安時間:3分

エピソード:1 / 8

第一話! 何故お前が知っている!?

 禍々しき黒雲が立ち込め、絶えず落雷が降り注ぎ、荒れ果てた大地が広がるばかりの暗黒大陸。  その中心に座す魔王城で、全人類の敵である魔王と、魔王を倒すことを女神に運命づけられた勇者一行が相見える。 「魔王! 今すぐ月を止めろ!」  黒髪の勇者ヒロが、一対の角を持つあどけない少年の面立ちをした魔王に向かって切っ先を向ける。魔王は世界を滅ぼすと宣告したのと同時に、空に浮かぶ巨大な月が地上に落下するよう仕向けたのだ。 「止めろだって? もう無理さ。月とこの星は互いの引力で引き合ってるからね」  世界の終わりなど知ったことではない。銀色の爪と翼を模した装飾がついた豪著な椅子に腰かけている魔王はふんぞり返ったまま、他人事のように淡々とした口調で答える。 「月が堕ちれば、人間だけはなく、魔族も精霊も、皆滅びてしまう。なのにどうして!?」 「……意味がなくなったからだよ。この世界に」  法衣に身を包んだ聖職者の女性であるプリスの問いかけに、魔王は頬杖をついたまま、物憂げな表情でポツリと呟く。 「意味、だと?」 「そう。僕はね、本を読むのが好きなんだ。それで、物凄く大好きだった作家が書くのやめちゃって、いくら待っても続きが読めなくなったから、もういいかなって」  物語、という言葉にヒロはぞわりとした寒気と同時に懐かしさを感じてしまい、魔王に向けていた切っ先が微かにブレる。  その背後でギリッと、戦士ホークが奥歯をきつく噛む音が聞こえた。 「テメェ、ふざけるのも大概にしろ。たかが本だろうが。そんなもので世界を壊される方の身にもなってみろ!」  ホークが怒気を込めて魔王に食って掛かるが、ヒュウ――と、生ぬるい風が吹いたと同時に、子供めいた魔王の小さな体から想像もできない程の魔力が溢れ出し、凄まじい殺気を放ってヒロたちを威嚇する。 「な、なにこの威圧感? これが、魔王……!?」  魔法使いのマッジョが体を震わせて慄くも、せめて気持ちだけは負けないようにと必死に魔王を睨みつける。 「“たかが”だって? おじさん。そういう言い方は、良くないよ。その物語が、僕にとっての全てだったんだ。それに、物語が失われて世界が消えることを恨むなら、勇者ヒロを恨むべきだよ、おじさん」 「おじ……って、なんだと……?」  うっ、とヒロが顔を青くするのと、勇者一行がヒロの方に視線を向けたのはほぼ同時だった。 「どうして、ヒロが?」 「ヒロ。こんなヤツの戯言なんか無視してさっさとやっちまおう!」 「マッジョの言うとおりだ。人をおじさん呼ばわりするワルガキにキツイお灸を据えてやらんと」  首を傾げるプリスを余所に、マッジョとホークは闘志を漲らせて今にも魔王に殴りかからんばかりの勢いでヒロに迫るが、ヒロは動けずにいた。 「ま、まて。待ってくれ」  ヒロの頭に過る、一つの物語。アレをどうして魔王が知っているのだ?  あり得ない。そんなはずが。  ヒロの動揺に気付いたのか、魔王がほくそ笑む。 「……思い出してくれたかな?」 「し、知らない! なんのことやら」 「忘れたなんて言わせないよ! 『レベル1,000,000,000(ビリオン)になった村人Aの俺。何もしていないのにヒロインたちに言い寄られてしまい、ハーレムになってしまった。~次いでに勇者に代わって魔王を倒そうと思う~』の作者だってねッ!!」 「ぐわああああああああああああああああああッ!!」 「ヒ、ヒローッ!?」  魔王が物語の表題(タイトル)を唱えた途端、絶叫する勇者ヒロが全身から血を吹き出して頭から豪快に真紅のカーペットに倒れてしまった。  ――出来ることならば、二度と思い出したくなかった。記憶の奥底で、じっとしていて欲しかった。  その物語は十年前、当時十三歳で中二病真っ盛り(多感な年頃)のヒロが、初めて書いた小説のタイトルだから……。

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