宝石の子

読了目安時間:15分

エピソード:9 / 24

優しい大人たちに支えられ、時間をかけて立ち直ったルミエール。 みんなに待ち望まれてついにペタル・ローズが誕生する。

ルミエール

新たな出会い

 五年の月日が流れた。ルミエールは十三歳になり、その目に強い意思の光を宿すようになった。教養とマナーを身につけたルミエールは輝くような金髪と端正な容姿も相まっておとぎ話の王子のようだという召使いさえある。セレナが華やかなドレスシャツばかり選んで与えるせいでルミエールはいかにも貴族の子息のような服装をしていることが多い。  ジェドはルミエールに家庭教師をつけた。ルミエールの成長もあるが、自身が忙しくなったのもあって見きれないと感じたのだろう。領内にある平民の子どもが通う学校に行かせるべきではないかと検討もしたが、ヴェルデにルミエールは目立つからまだ誘拐の危険があり、行かせるべきではないと言われた関係もある。シルク・フリークはかなり数を減らしてきたが、まだまだ脅威はなくなっていない。  ジェドは以前より少し忙しそうにしている。王宮への出入りや、有力貴族のサロンへの出入りが増えたらしいのは召使いが噂していた。シャツもジレもクラバットもズボンもジャケットも何もかも真っ黒だったジェドがクラバットだけ白くしたのは何か意味があるのだろうか。クラバットピンにローズが遺したサファイアをつけたのは一つの覚悟なのかもしれない。  セレナは二年前にヴェルデと結婚した。四年前にはヴェルデは少佐になっていたのだが、素直に受け入れるのはなんだか癪といったのは建前で、セレナにも色々思うところはあったらしい。貴族の奥様らしからぬシンプルなドレスを着ているのは相変わらずだが、アクセサリーはちゃんと身に着けるようになったのは結婚したからだろうか。  ヴェルデが一緒に住み始めれば少し賑やかになるかと思ったが、ヴェルデの激務は相変わらずで、ほとんど夜にしかいないせいかあまり変わらない。子どもはまだいないが、あの睦まじさでは時間の問題だとルミエールは思っていた。セレナに子どもができたら関係が変わるかもしれないと少し不安もあったが、ジェドはいるし、きっと本当の弟妹のように愛せるとも思った。  セレナが結婚して寂しかったのかジェドに養子にならないかと問われたこともあったが、ジェドの気が変わって結婚したくなった時に邪魔になりたくなくて断った。ジェドも貴族など気苦労が多いばかりだと笑っていたから本気ではなかったのだろう。  ルビーの中のペタル・ローズは今や幼子の姿をしている。ルビーの中で胎児のように丸まっているが窮屈そうで、そろそろ生まれてくるのではないかと皆が待ち望んでいた。 「君は思った以上にのんびりなんだね」  ルミエールがルビーに触れると、ペタル・ローズがパチリと目を開けた。初めて開かれたオパールのようにきらめく不思議な目はローズによく似ている。 「ペタル・ローズ……?」  ペタル・ローズはふわりと笑い。ルミエールの手に小さな手を重ねた。音を立ててルビーが砕けた。破片は無数のきらめく宝石に変わっていく。色とりどりの宝石が輝く光景を前にしてルミエールはあの日を思い出した。胃がズシリと重くなる。生まれることなく消えてしまうなんて思いたくない。だが、数瞬のち、そこには白髪の幼子が立っていた。 「ペタル・ローズ?」  二歳になるかならずの幼子はにぱっと笑って頷き、ルミエールにぴょんと抱き付いた。 「るみえ、だいすき!」  ルミエールは小さな小さな身体をぎゅっと抱きしめる。 「ぼくも大好きだよ」  ルミエールは笑いながら涙を落とした。あの日、ローズが声に乗せられなかった言葉をペタル・ローズが伝えてくれた。それがうれしくて、愛しくてたまらない。 「いたいいたい?」  ペタル・ローズはルミエールを心配そうに見上げる。 「違うよ。君に会えたことがうれしいんだ……ずっとずっと待っていたんだよ、ペタル・ローズ」 「うれし?」  ペタル・ローズは小首を傾げる。ぷくぷくしたバラ色の頬も、オパールのようにきらめく不思議なくりくりとした大きな目もかわいくて、愛しくてたまらない。 「そう、うれしい。セレナとジェドのところに行こう。二人も君をずっと待っていたんだ」  ペタル・ローズは無邪気に笑って頷いた。ルミエールはペタル・ローズの小さな身体をカーディガンでくるんでやってから、ジェドの部屋に向かう。記憶がどの程度あるかはわからないが、姿はローズがそのまま幼くなっただけのようにも見えるし、まったく似ていないようにも見える。白髪も、オパールのようにきらめく不思議な目も、白い肌も同じだが、胸にはルビーがなく、男の子ではないようだ。だが、女の子というわけでもないような気がする。 「ペタル・ローズは女の子?」 「んーん、ろぜはろぜ」 「そっか」  性別がないのだろうか。 「るみえ、ろぜ」  ペタル・ローズはにこにこ笑って指さしながら名前を呼ぶ。まだ喋り始めたばかりの幼子のようだ。ルミエールの名前も上手に発音できないらしい。自分の名前はわざと短くしているようだった。そう呼ばれたいのだろうか。不意とペタル・ローズはルミエールの前髪で隠している左目を指さした。 「きんのめ、ない」 「ああ、目立っちゃうから隠してるんだ。用心した方がいいってヴェルデ少佐がね」  ペタル・ローズは小首を傾げてふくふくとした手で右目を押さえる。 「なにしてるの?」 「いしょ!」  ペタル・ローズが手をどかすと右目がルミエールの右目と同じ紫色の宝石に変わっていた。ペタル・ローズはうれしそうににこにこ笑っているが、ルミエールは笑顔が引きつるのを隠しきれなかった。やはり普通の子ではないらしい。 「ジェド、ぼくです」  ちょうどジェドの書斎の前だった。ジェドは少し眠そうな顔でドアを開けてくれた。昨日は夜会に行っていたからうたた寝をしていたのかもしれない。 「どうかし……え?」  ジェドの視線がペタル・ローズに釘付けになる。 「さっき、ルビーが砕けて生まれてきたんです」 「そうか……ペタル・ローズ……」  ジェドの大きな手で撫でられてペタル・ローズはうれしそうに笑って手を伸ばす。ジェドに抱き上げられるとペタル・ローズはジェドの頬にぺたぺたと触れる。 「じぇー、すきー!」 「ああ、俺も好きだぞ」  ぎゅうと抱きしめられてペタル・ローズはきゃたきゃたと笑う。ぽたりと落ちてきた滴にペタル・ローズは不思議そうにジェドを見上げる。 「いたいいたい?」 「違う。うれしいんだ……ペタル・ローズ、ずっとずっと待っていた」  ジェドは自分がこれほど涙もろいと知らなかった。愛しさが胸をいっぱいにする。 「ルミエール、この子は普通そうか?」  ジェドの問いにルミエールは肩をすくめる。 「普通じゃなさそう。でも、胸にルビーはないし、言い聞かせればちゃんと隠せると思うんです。ペタル・ローズ……ロゼ、さっきのもう一回できる?」 「あい!」  ペタル・ローズは左目をぎゅっと押さえ、手を離す。今度はサファイアに変わっていた。ジェドの目の色にしたらしい。 「宝石から生まれた子が普通なわけはないか……」  ジェドはため息交じりに呟いてペタル・ローズの頬をやさしく撫でる。ペタル・ローズには幸せな生を歩ませてやりたい。 「セレナがこの子が生まれた時のためにと服を作らせていた。ちょうどいいものがあればいいんだが」 「そうでしたね。少し気が早いんじゃないかと思ってたけど、ちょうどのタイミングでしたね」 「セレナは昔から勘がいい」  ジェドはペタル・ローズの頬をぷにぷにとつつく。 「じぇー?」 「ああ、つい。ペタル・ローズ、ジェドだ、ジェ、ド」 「じぇろ?」 「発音できないのか」  ジェドはふと笑う。舌足らずの喋り方がひどくかわいい。 「セレナ、いるか?」  セレナは相変わらず厨房にいる時間が長い。 「なあに? 今ちょっと手が離せなくて」 「ペタル・ローズが生まれたんだよ!」 「え! ペタル・ローズが! あぁ! もう!」  何かをひっくり返した音がした。慌てて出てきたセレナのエプロンとドレスが粉まみれになっている。だが、セレナの目はペタル・ローズだけを見ていた。 「この子が……」 「せれな、だっこ!」  ペタル・ローズはセレナに向かって両手を広げる。 「もちろんよ! 来て!」  ジェドから託されてセレナはペタル・ローズをぎゅっと抱きしめる。 「ああ、ペタル・ローズ……あなたなのね……」 「ろぜ、せれな、すき!」 「私もよ! ロゼ、愛しているわ」  セレナの頬を涙が流れ落ちる。愛しさが胸をいっぱいにした。 「うれし?」 「そうよ。うれしいの。おいしいお菓子をいっぱい食べてもらえるわね」 「おかし?」 「そう、お菓子よ。ふふふ、まずは服を着せてあげなきゃね。その前にお風呂かしら、冷え切ってるわ」  セレナは弾む足取りでペタル・ローズを連れて行った。 「目を宝石に変えられるだけならいいんだが……」 「そうあってほしいと思いますけど、性別がないみたいなんですよね……」 「性別がない?」 「はい、どっちなのか聞いたら、ロゼはロゼって答えられて……わからないです」 「まぁ、困るようなことでもない、か?」 「見た目でわかることではないですしね……」  二人の不安が的中し、ペタル・ローズに三人が振り回され、ヴェルデも巻き込まれるまで時間は必要なかった。 「嘘でしょう!?」  バスルームからセレナの悲鳴が響き、ルミエールは慌てて走って行った。セレナがさっさと連れて行ってしまったからゆっくり追っていたが、その少しの間にペタル・ローズは事件を起こしたらしい。 「どうしたの? え?」  セレナの指さす先にロゼがぷかぷかと浮かんでいた。セレナが叫びたくなるのも当然だ。 「るみえ!」  ロゼは勢いよくルミエールの胸に飛び込んできた。ルミエールは驚きながらもどうにかロゼを抱き止める。 「えーと、なんでロゼは飛んでいたの?」  ルミエールが戸惑いながら聞くと、ロゼは不満そうに唇を尖らせた。 「あちち、やー」 「熱いのが嫌でも飛んで逃げちゃダメだよ」 「め?」 「ダメ。お風呂は怖くないからちゃんと入ろ?」 「るみえ?」 「洗ってあげる」  すでにロゼを抱っこしたせいで濡れてしまった。どうせ、着替えるのならもっと濡れてもかまわない。なぜ飛べるのかはわからないが、ロゼはルビーから生まれた子で、何もかもが普通ではない。そういうこともあるのだと受け入れていこうとルミエールは思う。 「セレナ、お風呂が熱かったんだって」 「そうかしら?」  セレナは風呂の温度を確認する。ぬるいぐらいだ。 「ずっと冷たいルビーの中にいたから普通の温度でも熱いんじゃないかな?」 「ああ、そうよね。私ったら、想像もしてなかったわ。だからって飛ぶのはよくないと思うのよ? ロゼ、びっくりしてしまうわ」 「ごめんね?」  ロゼは潤んだ目でセレナを見上げる。 「んーん、いいのよ、ロゼ。でもね、お願い、私たち以外の誰かがいる時は飛ばないでちょうだい。いいわね?」 「うん!」  力強く頷いたロゼの頭を撫で、セレナは湯船に水を足す。ぬるすぎるのではないかと思ったが、ロゼの身体は石のように冷たい。これぐらいの方がいいのかもしれない。 「これで大丈夫かしら?」  ロゼはルミエールに抱きかかえられたまま、小さな手でぱしゃぱしゃと湯に触れる。 「だいじょぶ!」  ルミエールは満足そうに答えたロゼをゆっくりと湯船の中に立たせる。 「髪は洗ったの?」 「まだよ。髪が濡れているのはちょっと暴れたせいよ」 「そっか」  ルミエールは苦笑する。ローズは聞き訳がよすぎるくらいだったが、ロゼは幼子らしく奔放らしい。 「雨さん、ざーざー降ってくるよ。おめめ閉じようねー」  ルミエールは歌うように話しかけながら手際よくロゼを洗っていく。 「慣れているのね?」 「兄さまがしてくれたのと同じようにしてるんだ。出会ったばかりのころはまだ喋れたから」 「そう……」  手が止まっているのをロゼが不思議そうに見上げる。 「あわあわさん?」 「あわあわさんお休みしてたんだ。あわあわ、あわわわわー」  やはり、二人の特別な絆は続いているのだろうか。ロゼはルミエールを信頼しきっているように見える。 「もう一度雨さんが降るよー」 「ざーざー!」  泡を洗い流されてロゼは満足そうに笑う。 「きれいきれい?」 「うん。ばっちり」  ロゼは両手を広げて抱っこをねだる。 「さ、こっちよ」 「ふわふわぁ」  ルミエールが抱き上げたロゼをセレナがバスタオルで受け止める。 「そう、ふわふわよ」  丁寧に拭いてやるとロゼはくすぐったそうにきゃたきゃたと笑う。ロゼの身体はふくふとした幼子のそれだ。二歳に満たないくらいだろうか。あのルビーの中に入っていたにしては大きいが、ルビーから生まれてきた時点で普通ではない。少しくらい大きくても些細なことだ。こういうものかと気にしていなかったが、ロゼは冷たいだけでなく、妙に軽い。不思議なことが多すぎて考えるだけ無駄な気がする。 「るみえ」  丸襟のかわいらしい子ども服を着せられたロゼはとてとてと歩いてルミエールの足に抱き付いた。 「ねむねむなの」  ロゼは目をぐしぐしとこする。目覚めたばかりのような気がしたが、ずっと眠っていたのに急に動き出したから疲れてしまったのだろうか。ルミエールは濡れた上着を脱いで、ロゼを抱き上げる。 「ねんねしていいよ」  やさしく揺らしてやるとロゼはすぐにすやすやと眠ってしまった。 「ふふふ、かわいいわね」  セレナの言葉にルミエールはゆるく笑う。 「うん。ねぇ、セレナ、兄さまはたくさん苦しい思いをして死んでいった。だから、この子には辛く、苦しい思いはさせたくない……できる限り守ってあげたいんだ。兄さまがぼくを守ってくれたように……だから、セレナ、協力してくれるよね?」 「もちろんよ。ヴェルデも、お兄様も間違いなく協力してくれるわ。せっかくこうして生まれてきてくれたんだもの。いっぱい幸せにしてあげたいわ」  セレナはやさしく微笑み、ルミエールの頭を撫でる。 「みんなで守って幸せにしてあげましょう」 「ありがとう、セレナ」 「さ、ロゼのベッドを手配させなきゃ」 「一緒のベッドで寝るから大丈夫だよ」 「あら、あなた寝相悪いじゃない。ロゼごと落ちないって言いきれる?」  その言葉にルミエールはなにも言えなくなる。起きるころにはベッドから半身落ちているのは日常茶飯事で、一週間に一度は完全に落ちる。朝まで何かを掛けていられたためしはない。 「ちゃんとお布団を掛けて寝かせてあげなきゃ、風邪を引くかもしれなくてよ?」  ルミエールはため息を吐いて肩を落とす。ローズとしていたように同じベッドで眠りたいと思っていたが、厳しそうだ。 「ぼくの部屋にロゼのベッドを入れてください。お願いします」 「よろしくてよ」  セレナはくすくすと笑いながら去って行った。ローズと眠っていたころはベッドから落ちたことはなかったし、布団を必ずかけていた。眠っている間もローズが世話を焼いてくれていたらしい。今度は世話をする側になったのだ。ローズほど上手にできるとは思えないが、できる限りのことをしてやりたい。  ルミエールはすやすやと眠るロゼを抱いてジェドの部屋に向かった。ジェドのそばは不思議と落ち着く。ジェドの寡黙な雰囲気がそうさせるのだろうか。幼いころはわからなかったが、ローズがジェドの書庫を隠れ場所に選んだ理由が今ならわかる。  ジェドはルミエールの腕の中ですやすや眠るロゼを見てふと笑う。鷹のように鋭い目がいつも以上にやさしく見えるのは気のせいではない。 「かわいい……」 「兄さまもかわいかったでしょう?」 「ローズはかわいいというより、きれいな子だった。かわいく思ってはいたがな」  ジェドはクラバットピンのサファイアをついと撫でる。 「そうでしたね……ぼく、もう兄さまの歳を越えてしまったんだなぁ……」 「そうだな」  ジェドはルミエールの頭をくしゃりと撫でる。 「お前はお前らしくすればいい。俺はローズも、お前も、ロゼも、等しく愛しい」 「敵わないなぁ」  ルミエールはソファにぽすりと座る。 「ねぇ、ジェド、この子、空が飛べるんです。高く飛んでしまって捕まえられなくなったらお願いしますね」 「空を飛べる?」  ジェドの眉間にしわが寄る。困惑が隠しきれなかったらしい。 「はい、ふわふわ浮いて自由に飛べるみたいです」 「ルビーから生まれてきただけあるな。他にも何か隠していそうだ」 「気紛れに見せてくるので、召使いの目にはできるだけ触れないようにするのがいいと思います」  ローズのように静かにそこにいるだけだったら目立たないかもしれないが、ロゼはきっと違うだろう。 「そうだな、とりあえずは俺の隠し子を引き取ったということにして伏せているが、それがいいだろう。外で遊ばせるときは一番奥の中庭を使うといい。急いで手入れをさせておく」 「あの、ジェド? 今さらっとすごいこと言いましたけど、大丈夫なんですか?」 「隠し子のことか?」 「はい……」 「他に説明のしようがない。ルビーから生まれたなどと言って情報が漏れるのも困る」  ジェドは事も無げに答えた。 「そうですけど、独身で侯爵のあなたがそんなウソを……!」 「セレナとヴェルデの子にするわけにはいかないし、俺は結婚する気がないから少々変な噂が立ってもかまわん。歳も歳だしな。それに」  ジェドはルミエールの腕からロゼを抱き上げる。 「俺は子どもが好きだ」 「小さい子どもは嫌いだと思っていましたが?」 「必ず怖がられるから避けていただけだ。泣かれるのは堪える。お前だけだぞ? 初対面から俺を怖がらなかった子どもは!」  ルミエールはその言葉に苦笑いをこぼす。確かにジェドは並外れて背が高く、小さいころは顔が見えないせいか、何を考えているかわからず、怖いと感じることもあった。目は鷹のように鋭いし、表情も乏しく、冷たく見える。付き合ってみれば、やさしく穏やかな人柄を知れるのだが、第一印象で損しているのは否めない。ジェドはこの上なく愛おしそうにやさしい眼差しをロゼに注いでいる。 「本当に、愛おしい……養子にしたいくらいだ……」 「ダメです。貴族なんて気苦労が多いばかりだって言ってぼくを養子にしなかったのはあなたでしょう?」  そう言われてジェドは肩をすくめる。 「たとえの話だ。だが、もしお前が養子になりたいというなら俺は一向にかまわんぞ? シュトラール家を残すためにいずれは考えなければならんしな」 「セレナたちがいるでしょう?」 「そうだが、選択肢は多い方がいい」  ジェドは軽く息を吐いて、ルミエールの隣に腰を下ろす。 「少し気になったんだが、軽すぎないか?」 「ルビーがだいたい三キログラムでしたから、それより重いってことはないと思うんです。欠片がかなり残っていましたし……人の基準で考えるには向かないと思いますよ。だって、ルビーより大きいでしょう?」  そう言われて思い返せば、ルビーはジェドが両手で包み込めないこともない程度の大きさだったが、腕の中ですやすや眠っているロゼは手の中に納まるとは思えない。けれど、ルビーより軽い気がする。ルミエールが言うように常識で考えても意味はないのだろう。ジェドはロゼのすべすべでぷくぷくした頬をやさしく撫でる。 「そうだな……幸せに育ってくれればそれでいい」 「はい」  なにも知らずに幼子はすやすやと眠る。  

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