目を開けるといつもの天井が見えた。
あれ? 俺って確か、自称神様、鈴木に異世界転生……じゃない、召喚? されたんじゃなかった?
そんなことを思いながら俺はベッドのサイドテーブルからペットボトルを取り上げた。何か妙に体がだるい。おまけにべったり汗をかいてるっぽい。
「そっか。夢だったんだ」
とてつもなく変な夢を見たから嫌な汗をかいて寝てたに違いない。俺はそう思いつつ、すぐに風呂に向かった。
両親共働きっていうのはこういう時に楽だ。朝にはちょっと遅い時間だけど、だからこそ家には俺以外の誰もいない。食事は勝手にするようにって意味なのか、冷蔵庫には食料が入ってるから平気……あれ?
何でおなかが減ってないんだろ。変だな。
昨日は確か、アニメを観ながら寝落ちしたはずで、だから夜は食べてない。はずなのに、俺の腹は減ってなかった。変だなー、と思いつつ、シャワーでさっと体を洗って部屋に戻る。
そういえば昨日のアニメ、途中までしか観てなかった。
途中で冷蔵庫から引っ張り出した新しいペットボトルを片手に、俺は端末を立ち上げていつものアニメ動画サイトをチェックした。昨日、観ていたからか、やっぱり再生が途中になってる。あくびをかみ殺しつつ、俺は画面をタップした。
するとそこには見覚えのないはずの、でも、夢に出てきた景色が映っていた。海が見える街で主人公がヒロインの一人と仲良さげに歩いている。
その街は鈴木が造るとかどーとか言ってた場所にそっくりだった。
「嘘だー!」
俺はペットボトルを放り出して頭をかきむしった。
なにこれ! 異世界転生戻り!?
あれ!? 俺、生きてるよね!?
心の中でそう叫んだ瞬間、視界が真っ白になった。
「やっほー! 凜! 元気ぃ?」
元気な声で挨拶されたかと思ったら、目の前にいきなり女子高生が現れる。俺はびきっ、とその場に固まってしまった。すると目の前の女子高生がちっ、と舌打ちする。
「やっぱ駄目か。少しは慣れろよー」
そんなことを言った女子高生が男子に変わる。現れたのは鈴木だった。判ってたけど俺は思わずほっとして深々と息を吐いた。おもっきり息を吐いた後、俺はふかーく息を吸ってから喚いた。
「慣れの問題じゃなくて! っていうか、夢じゃなかったの!?」
「凜はドリーマーか。夢じゃなく現実だと言ったはずだが?」
首を傾げた鈴木が平然と言う。このやろー……。
「あのままだとお前、今日は学校に行くつもりなかったろ?」
急に鈴木が変な話を振ってくる。
何でこのタイミングで学校の話……。俺にその話題を振るとか嫌がらせ?
多分、ものっすごい嫌な顔をしただろう俺は、うんざりしながらため息を吐いた。
「今日は行かない。寝汗が酷くてシャワーを浴びたところだったんだ」
「そのまま登校すべきだったと思うが? ってか、凜。今日は授業に出ないと出席日数がヤバいぞー?」
「は!? 何で鈴木がそんなこと知ってるんだ!」
びっくりした俺の声に頷いた鈴木が、どこからともなく薄型の端末を出して画面をタップする。裏面に貼られたシールを見た俺は背中に冷たいものが伝うのを感じた。
あの猫のシールは間違いない。うちの担任が使ってる端末だ。前に家に来た時に使ってたはずだ。どこが可愛いのか判んない、微妙な猫のシールが妙に印象的だったから覚えている。
「とりま、学校行って来いよー」
鈴木がそう言った直後、俺の周囲の景色が音もなく変化した。
俺は部屋の床に転がったペットボトルを目で追いかけた。投げた直後に戻ってきたらしい。ペットボトルはころころと転がってベッドに当たって止まった。
どうやら夢じゃなかったぽい。俺は慌てて制服に着替えて登校することにした。ホントはヤだけど、仕方ない。既に遅刻だけど今から行けば午後の授業には間に合う。
家を出てドアの鍵を外からかける。
……何かこれも久しぶりかも。今は通販があるから自分で買い物に出ることは滅多にないし、食べ物は一応、用意されてるから出る必要がない。だから俺は安心して部屋に閉じこもっている。
「眩しい……」
外は薄雲がかかってたけど、引きこもってる俺には目に痛いくらいの日差しに感じられた。徹夜でゲームクリアした後に太陽を見たときと同じ感じがする。
俺が通っているのは徒歩圏内の高校だ。一応、公立高校ではあるけど、進学校じゃない。だから授業もそれほど難易度は高くない……んだけど、俺は基本的に勉強が苦手だから、今の段階でもついていけてない。それでも出席日数が足りていれば、何とか進級はさせてもらえるレベルの学校だ。
はー、とため息を吐いて俺は授業中の学校に入った。イジメとかはされたことはないんだけど、基本、俺は空気みたいな存在だと思われてるっぽい。普段はいないからレアキャラくらいには思われてるかもだけど、それも俺を見かけた人だけだと思う。クラスメイトにすら名前も覚えてもらってない自信がある。
とりま、学校行って来いよー。
鈴木の言ったことを思い出しながら、俺は自分の教室に入った。ドアをノックして開けると授業中だった数学教師が名前を訊ねてくる。俺が名乗ると遅刻だぞ、とだけ言ってから、目で机の方を見る。俺はそそくさと自分の席についた。
クラスメイトたちが座る机の間をすり抜けて自分の机、一番後ろの窓際、俺にとっては楽な位置の席に着く。椅子に腰掛ける前に数学の教師は授業を再開し、一瞬だけざわめいたクラスメイトたちもすぐに口を噤んだ。
午後の授業はあと二時限しかない。でも、午後だけでも出席しておけば、その日は出席したことになる。本当ならアウトだと思うけど、そのくらいこの学校は緩い。
残りの二時限の授業が終わったところで、俺は帰るために席を立った。学校にいると何だか落ち着かない。周りに人がいるのが怖い。共学だから女子もいるせいかも知れない。確か、鈴木も女子と接した時の緊張度が上がる、とか言ってたっけ?
とにかく帰ろう。俺は来た時と同じく、そそくさと教室を出ようとした。その瞬間、周囲が真っ白になる。
「なっ! 鈴木ー!」
「何これ!」
俺の叫びともうひとつ、別の叫びが重なった。俺ははっとして声がした方を向いた。
この子は教室のドアのところですれ違いかけていた、確か同じクラスの女子だ……ったはず。多分。
「凜、おつかれー。そしていらっしゃーい、えーと」
「嫌ぁああ!」
鈴木が喋る前に女子がパニックを起こしたのか叫ぶ。俺は慌てて鈴木と叫んでいる女子を見比べた。
「まだ無理かー……。仕方ないな」
鈴木が困ったように笑った直後、白い部屋から女子の姿が消えた。って、俺は!
「ちょっと! 俺も帰してくれよ! 何で俺だけ!」
「凜は学校には行けたんだからいいだろー? おつかれー」
「おつかれー、じゃない! それにさっきの子は何だ!?」
俺は鞄を落として鈴木に詰め寄った。すると鈴木がまあまあ、と俺の肩を叩く。
「今のはちょっと訳ありで、どーしてもウェルカムしたいんだよなー。でもまだ無理っぽいなー」
「俺だってウェルカムじゃないってば! っていうか、何なんだ!?」
混乱していた俺は必死で鈴木に詰め寄りまくった。
「凜と同じクラスの女子、名前は
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ぽち
女の子のほうから壁ドン(@ ̄□ ̄@;)!!
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ぽち
2020年9月15日 21時12分
琉斗・リュート/すじしまどじょう
2020年9月16日 1時09分
いつも読んでくださってありがとうございます! テンパった女の子(ロボ娘)もなかなかいいのでは。と思いながら書きました!
※ 注意!この返信には
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琉斗・リュート/すじしまどじょう
2020年9月16日 1時09分
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