私は永遠春来の一番になりたい!~先祖返りと青春の世界~

12話 僕は先輩に揉まされる

 昨日のお夕飯の残りを僕は食べる。ご飯とカレーをお皿に盛ってレンジでチンっとすると完了だ。昨日はせっちゃんとゲームをすると、何処で極めたのか勝てなかった。得意だったような気になっているだけかもしれないが、格ゲーも大変な目にあった。  せっちゃんと今度ゲームするときは、初めてのジャンルにチャレンジしなくては……。僕は折りたたみ傘を貸した事を思い出す。二人はギリギリ入れる大きさなので、一人で大丈夫だと思うけど……。ちゃんと帰れたかな? こういう時に僕は携帯電話で連絡をすれば良いと思い出す。しかし、もう翌日になっているので時すでに遅い。  僕はもう一つの傘を手に、家を出た。今日も雨が続く、日の光を見た記憶が……先祖ランドでは曇っていたなと思い出す。今日の人噛さんは遅刻しないで出席するだろうか。そんな事を考えながら僕は教室で自分の席に座っていた。今日も人噛さんの姿は見えない、どれくらい遅刻するかな? って思っていたのだが、人噛さんはお休みだった。  体調不良でお休みとの事なので、先祖ランドで風邪を本当に貰ったのかもしれない。昨日体調が悪かったのかな、見ているとそうとは感じなかったんだけど。そんな事を考えていたら、信じられないことに三日連続で人噛さんは学園を休んだ。  流石に、明日も来なかったら家にお邪魔しようと思う。普段から連絡を取る習慣が無いので僕の携帯電話には通知が一切なかった。バイトの連絡さえ一切無かった。ちなみに、アレから安室ちゃんにはお昼を御馳走している。もうそろそろ、開放して欲しいので直談判に突撃しないといけない。しかし、美味しそうに食べる安室ちゃんは中々良いものではある。 「春来はここで何をしている?」  僕は休み時間に雨の空を廊下で眺めていた。そう、特に何もしていない。だが、何て答えよう。 「ふっ、僕は大和先輩がここに来るのを知っていました。貴方を待っていたんですよ」 「ほぉ、で、何の用だ?」  目の前の大和先輩は腕を組んで僕の隣に迫ってきた。つい、口に出しただけで特に用がある訳では無いのだけれども。さぁ、何て答えようか。何て答えようか。何て答えようか。 「ごめんなさい、言ってみただけです。何も無いです」  特に思いつかなかった。 「はぁ……心底飽きれたよ」  見せつける様に大きなため息を一つ。今日の先輩は機嫌が悪いのかもしれない、穏便にすまさないといけない。しかし、よーく見ると少し目の下にクマが出来ているような。 「もしかして、先輩? 疲れてません? クマの様な先輩に目の下が……あ、違う。先輩の目の下にクマの様な」 「殴っていい?」  つい本音が、いや違う。言い間違えました。そして、ローファーで蹴られた。 「あぁ、私はとても疲れている。肩でも揉むか?」 「おっと先輩、先輩に揉めるむ」  言い終わる前に僕は殴られた。まさに、瞬きする間に先輩の拳を僕の目は捉えていた。動きがとても速い、本当に疲れているのだろうか。そして、地味に痛い。割と本気で殴ったと思う。 「ちょっと、先輩まだ言い終わってませんよ?」 「で、肩を揉んでくれるんだったか?」  先輩権限を使ったパワハラな気がする。雨が降っている窓辺で男女が縦に並んで、外を眺めている。何故か男は女の肩に手を載せていて、ほっぺたが膨れている。そんな図を想像して欲しい、とても異質だと思う。  僕よりも背が低いので、後頭部を上から眺めていた。癖のない黒髪のはずなんだが、雨だから疲れているのか少し跳ね気味である。あと、僕は基本鼻で呼吸をしているので自然と先輩の匂いが僕の鼻を刺激するはずなんだが、特に何も感じられなかった。 「もう、いいっすかね先輩」 「今だけと言わず、いつ揉んでもいいんだぞ?」 「いやー、先輩肩が凝るなんて絶対今だけですよ。肩が凝る原因って」  僕の顎に先輩の後頭部がぶつかった。彼女は背伸びした程度なのだろうけれど、とても痛い。絶対に真似しないで欲しい。 「春来に伝えようと思っていたのだが、偶然出会えて私は嬉しいよ。暫くバイトの連絡は無かっただろうが、今週は全部休みのつもりだ。存分にこの休みを謳歌するがいい」 「先輩、休みは嬉しいです。でも、外雨ですよ? お出掛けする訳にもいかないじゃないですか? どう休みを謳歌したらいいんですか?」 「後輩、家でやる事は無いのか?」 「うーん、そうですねー。テレビゲームを極めたいと思います」 「やることがあるじゃねーか。絶対に家から出るんじゃねーぞ? 絶対だからな」 「そういう先輩は何するんですか? 家に引きこもってゲームするんですか?」 「私はゲームをしない。というか殆どやった事が無い。春来がバイト無いだけで私はあるのだよ」 「あ、先輩だけお金稼ぐ気だ。僕の分もお金稼ぐ気だ」 「そんなに働きたいのか?」  正直、自由な時間の方がいいです。えっと、何て答えよう。 「えぇ、先輩のカッコいい姿を隣で見る事が出来ますからね」 「ほほぉー、私の働く姿が好きなのか? 人噛……だったかな? 彼女とデートに行く間も私のことが忘れられなかったのか?」 「いいえ、ぜんっぜん頭にありませんでした」 「だろうな。で、あの子は元気かい?」 「人噛さんですよね。暫く学校休んでいるんですよねー、お見舞いに行こうかな」  部屋が隣なので、今日は様子を見るのも悪くない。風邪が移る心配もない。 「休んでいるのか……」  何か考え事をしているように見える。大和先輩は良く悩んでいると僕は思う。日頃から悩みが絶えない先輩だ、しかも先輩も女の子なので色々な悩みがあるんだろう。あまり干渉するべきでは無いが、つい弄りたくなる。 「先輩もお見舞いに行きたいんですか? 一緒に行きます?」 「一人で行け……と、言いたい所だがそれは良い案だな」 「え、まじすか?」 「なんだ? 私と一緒じゃ嫌なのか?」  この先輩、意外と乗り気だった。そもそも、人噛さんとはあまり面識が無いはず。 「嫌ですけど……先輩に殴られる様子を人噛さんに見られたくないです」 「うん? 私が春来を殴る? そんな事するわけがないじゃないか。まぁ、今回は引き下がるとしよう。くれぐれも気を付けてね」 「ふっ、大和先輩。僕に風邪が移ると思っているんですか?」 「あぁ、バカだったな」 「僕は少なくともバカですねぇ。んじゃ、休み時間の終わりも迫ってきてるので」  僕はそもそも休み時間の途中で窓から外を見上げているだけだったのだ。大和先輩に絡まれたのは予想外だったけど、肩を揉むことが出来たし良い記憶として僕の頭の中に保存するとした。  スタスタと先輩は自分の教室に消えていった。後ろ姿を見送ると僕はせっちゃんが物陰から此方を見ているのに気付いた。 「あ、せっちゃん」 「春来くんが大和先輩に絡まれていました」 「そうなんだよ、何の罪のない僕をあの先輩は……」 「嬉しそうな顔で先輩の肩に触れていたような気がします」 「おいおい、大和先輩に触れて喜ぶ訳ないだろう。あの人は僕で遊びたいだけだよ」 「絶対に春来くん、大和先輩の匂いを嗅いでいるに違いないです」  この娘鋭いと言いたいが、鼻で呼吸しているんだ。そりゃ、匂いが漂うのも仕方がないというものさ。 「おっと、せっちゃん? 大和先輩からは何も匂いがしなかった。つまり、僕は匂いを嗅いでいない」  何にも嘘を言っていない。僕は真実をそのまま伝えた。匂いは確認したが匂いがしなかったので嗅いでいない。たぶん、この理屈は通る気がする。匂いを確かめた点をやられたらどうしようも無い訳だが。 「まぁ、そういう事にしましょう。ところで数秒後に授業が始まりますよ」 「急いで教室に戻ろう」  僕達は無事に間に合った。一人だけが居ない教室、雨降りの教室は湿った匂いが漂う。

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