私は永遠春来の一番になりたい!~先祖返りと青春の世界~

11話 僕はボコボコにされる

「雨急に凄くなったねー、濡れてない?」 「大丈夫ですよ。春来くんが途中から明らかに私に傘を向けて濡れない様にしていましたよね?」 「僕はすぐ着替えきれるからね。ソファーにでも座ってて」  寝室に行き、僕はタンスを開けて服を取り出した。濡れた制服を脱いで着替える。雨に濡れていた時間は短いのに、とても濡れている。流石に、風邪とかは引かないけど僕じゃなくせっちゃんが少し心配だ。冷たい物に慣れているせっちゃんなら心配しなくてもいいのか? と一瞬頭をよぎったが、濡れるのは良くないと思う。  僕は寝室を開けて、ソファーに向かった。にゃんたが座る緑色のソファーに今日はせっちゃんが座っている。 「せっちゃん、本当に濡れてない? 少し心配」 「大丈夫ですよ? 触ってみますか?」  制服のどこも濡れていないと主張するように立ち上がると僕のもとに駆け寄る。ふわっと広がるスカートが目に映る。 「肩とか触ってみてください」 「んー、確かに少ししか濡れてない」 「でしょ? スカートもほら」 「大丈夫だね」 「春来くんのおかげだね」  肩を触るといつも通り冷たくて判断が難しかったが、よく見ると濡れていない。せっちゃんを判断するのはとても難しい。スカートは端の方を両面触ったが、裏側が濡れていないので大丈夫そうだ。 「さぁ、テレビ見よ」 「ちょっと待ってて、お茶でいい? 何か希望はある?」 「何でもいいよ」  僕は冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注いだ。昨日のうちに洗い物を済ませていて本当に良かった。  テーブルにコップを置くと、ありがとうとお礼が帰ってくる。僕とせっちゃんは、二人でソファーに座ってテレビを見ていた。  テレビ番組では、ニュースがやっている。最近サラマンダーの先祖返りが暴走して、燃やしてしまった施設を修復中らしい。今日の様に雨が降っていればもっと被害は少なかったと思う。その他、チャンネルを変えるとダンデくんの第一話の再放送がやっていた。 「おー、これがダンデくんね」 「そうです。これが『ダンデの群れ』ってアニメです。ダンデくんは群れを守る長なんですよ」 「この世界でも、もふもふは正義なんだな。ダンデくんのたてがみのもふもふさには、周りの仲間たちもいちころだ」 「そうですね。もふもふです」  なるほど、ダンデくんのもふもふ情報を手に入れたシャッチンがサバンナまで旅行にくるのか。ところでシャッチン、サバンナにはどうやって来たんだ……。アニメなので細かい事は気にしてはいけない。 「雨止みそうにないね。帰る時に降ってたら傘借りていいからね?」 「分かりました。ところで春来くん、なんかとてもいい匂いがしませんか?」 「え? いい匂い? どんな感じ?」 「女性の香りです」 「せっちゃん!? 女性の香り?」 「はい、何やらそんな気がします」  せっちゃんは僕に近づいてくんくんと匂いを嗅ぐ。顔が近いので少し照れる、というか女性の香りってどういうこと? 「でも、せっちゃん? ここには、にゃんたくらいしか来ませんよ?」 「もしかして、にゃんたっていい匂いがするのかな?」  僕はいつしか慣れてしまっていて匂いを感じない。それほどまでに、にゃんたは僕の家に遊びに来ている。気が付くと、そう。初めて僕の部屋に上がり込んだのはにゃんたで、引っ越して直ぐににゃんたは遊びに来てくれた。僕が高等部に上がるあの日、にゃんたと出会った。と、考えると数ヶ月の仲となる。 「今度遊びにきたら、匂いを嗅ぐといい。そう、せっちゃんもにゃんたでもふもふを堪能するがよい」 「にゃんたさん早く遊びに来ませんか」 「この雨だからねぇ」  僕達は窓から外の景色を眺める、まだ日は空にあると思うが雨雲のせいで夜といっても過言ではない。見晴らしも悪く遠くは見えない。この雨空の下、僕はせっちゃんを家に帰さないといけない。少しの間の雨宿りのつもりなのだが、どれくらい遅くなるかなと不安になった。 「そういえば、せっちゃんは雪女の先祖返りの……アレだな。制御というか昔よりはマシになった?」 「もちろんです。もう自分の部屋を冷凍庫にすることもありません、完璧です」 「懐かしいね、そういう制御ってどうやって上手くなるのかな?」 「難しいですよね。私の場合は少しずつ向き合う事かな? 怖がらない様にゆっくりと何が出来るのかを把握します。そして、自分の出来る事と出来ない事を知って、何が自分に合ってるの見極める事だと思います。でも先祖返りって個人差が大きいんですよね? 私と同じような雪女の先祖返りが現れている人に会った事はあるんですけど、指先で少しの部分だけ凍らせる事ができる程度で日常生活に支障はないらしいです」 「個人差はあるよなぁ、せっちゃんの様に強い力はレアだと思うんだけど」 「苦労しましたねぇ~」 「苦労したけど僕は楽しかったよ」 「そう言って頂けると嬉しいです」  あの頃の苦労を今は笑う事が出来る、そういう関係になれたのはとても良いと思う。せっちゃんも昔は自分の能力にとても苦労していた。一方、僕の方は段々と自覚していったのであまり支障は無かった。普通に生きるのに何も問題が無い、大和先輩が言うとおり僕はコントロールが得意だったらしく、驚かれた。 「でもでも春来くん。私の手を握ってみてください」  僕は、差し出された手を掴む。いつも通り、とても冷たい。握る時間が長ければ長いほど凍てつくように僕の腕から感覚が失われていく。素の状態の僕では耐えられない。だからこそ、僕も能力の出力を上げて行かないといけない。氷に耐えられるようにゆっくりと上げていく。その途中でせっちゃんが僕の手を振り切った。 「コントロール出来ていると言っても私の場合は触れるだけで冷たくしてしまいます。雪奈は春来くんに冷たくしてしまいます」 「あぁ、物理的にね? 僕の手が冷えたって事ね?」 「こういう悩みはありますよね」  無差別に凍らせる事は無くなっても、常時何かしらの効力を発揮する。それこそ、僕の体も他の人よりは優れているらしく体力測定では手を抜いているが上の下に入ってしまう。そういうもんなんだろう。だから、自分の先祖返りとは永く付き合わないといけない。今の時代では殆どの人に発現しているだろうが個人差がとても大きい。  その中でも先祖返りが色濃く出ている生徒を先祖学園では監視していると言っても過言ではない。学園長の爺は何かしらの方法で生徒達の力を感知しているらしく、僕は何も聞かされていないが先祖返りの能力をジャンル分けしランクを付けているらしい。  僕の人外殺し――勇者の能力はどういったランクなのか少しだけ気になる。しかし、まぁせっちゃん達と比べると生活に支障はない。このままのんびり問題無く生きたいものです。 「雨止まないね」 「そうだな。でも、少しだけ弱まってる……かな?」 「今日は、初めてのお泊りですね?」  いつも通り、ニコニコとした顔でせっちゃんは冗談を言う。僕は本気にせず、いつも通り返事をする。 「こら、雨がもう少し弱くなったら帰りなさい」 「わー」  せっちゃんは僕の寝室へと駆けて逃げる。あれ? 僕は脱いだ服をそのままにしていたような。洗濯機に放り込んでおくんだった。 「せっちゃん!?」  僕のベッドに入り布団を被るせっちゃんがそこには居た。 「せっちゃん? 頭の後ろの髪留め大丈夫? あ、外してるのね」  実はめちゃくちゃ髪が長い。纏めて後ろで上げているので髪留めを外した結果、くるくると癖のついた髪がいまは解放されている。  そのせっちゃんが、何か怪しい者を見るような目で此方を見ている。 「せっちゃん?」 「春来くん、ベッドからさっきとは違う女性の香りがします」 「え!? えぇ?」  ふと思い出す。この部屋は直ぐに僕の記憶を蘇らせる、何故ならそう。僕もめちゃくちゃいい匂いと感じた事を思い出したからだ。  人噛瞳がそこには確かに眠っていた。事がある。 「あー、あー、えーっと」 「雪奈は春来くんが何か心当たりがあるけど、どう誤魔化そうか悩んでいる様に見えます」 「ん? そんなことない……ぞ?」  僕の目がとても泳ぐ。心当たり、そこはあります。あっ、にゃんたを生贄にこの危機を逃れるしかない。 「多分、たぶんアレだよ。ベランダを開けっぱなしにしている時とかあるから、にゃんただよ? にゃんたがごろんってしたんじゃないかな?」 「雪奈は私より短く、春来くんより長い髪を見つけました」 「まてまて、その髪は多分僕だ。髪を切る前の長さに見えるな。うん」 「にゃんたは色んな女性の匂いがするの……かな?」  ベッドから上半身を起こし、僕の布団を抱きしめて上目遣いで僕を眺める女の子がそこにはいた。  眼鏡は少しズレていて無防備感が漂う。 「せっちゃん。落ち着いて考えるんだ。僕は日頃にゃんたが来るのを心待ちにしている、ベランダにいつ来てもいいように! つまり、にゃんたは僕以外の人の家にも遊びに行っているかもしれない。そのにゃんたを他の女性が撫でていると仮定しよう。すると、にゃんたにはいい匂いが付く可能性は大いにあり得る。そして、そのにゃんたが僕のベッドでゴロゴロして帰っているとしたら……」  僕はとっさに考えた割にはめちゃくちゃ説得力があるのでは? と自分でも関心していた。 「なるほど。その可能性は大いにありますね」 「な? 全てはにゃんたしか知らない。って話が変わっている。お泊りは許しません」 「仕方ないですね。雨が止んだら家に帰るんですよ?」 「ここは僕の家だ」  せっちゃんは諦めたのかベッドから体をだして立ち上がる。諦めてくれたようで僕は安心した。少し、残念な気もしなくはない。 「春来くん、じゃぁゲームしますか?」 「お、久々に遊ぼうか」  そのあと、めちゃくちゃボコボコにされた。

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