小鳥が持ってきたもの

 クナギが持ってきたものは、どれも、ハテヒたちがこれまで見たこともない玉だった。 「近場の邑とかを巡ってきたんだ。王女様にと、たくさんもらってしまったよ」  じゃらりと袋の中から出てきたのは、青いガラスで作られた首輪やめのう、水晶、ヒスイなどで作られた首輪や耳飾りだった。それらをイヨは物珍しそうに見つめている。  成人したばかりのハテヒとカジカに、何か贈り物をしようと思ったのか、クナギは周辺の邑に足を運んで珍しいものを探していたようだった。しかし、ヤヤクから話を聞いていたのか、クナギがイヨの住まう邑である北の都の貿易に携わっていることを知っていた邑の長たちは、次々に新しい王女であるイヨへの贈り物を渡したのだと言う。 「イヨ様、何かお好きなものはありますか?」  クナギに聞かれて、イヨはうーんと悩んだ。  腕輪を手に取り下げてみると、イヨには大きすぎて逆に不恰好になる。首飾りを下げれば、大きな勾玉がお腹の前で揺れる。それを見たハテヒは少し笑いそうになったが、こらえつつもイヨにぴったりのものを探す。しかし、どれも体の小さいイヨには似合うものではなかった。どう見ても、成人の女性が身に着けてそうなものも多くある。 「どれも、少し大きいようですね」  ハテヒがそう言うと、クナギがそうだよなあとため息をついた。 「分かってないんだよ。高価なもの贈ればいいってものじゃないよ。イヨ様が喜ぶものを贈らないと」  クナギが、手に取ったのはコハクで作られた髪飾りだった。 「これとか、どうですか? 太陽を模した髪飾りです」  クナギから髪飾りを受け取ったイヨは首を傾げ、ハテヒに手渡した。 「ねえ、つけて」 「あ、はい」  重さはそうなく、大きさも良い感じのものだった。耳の上を飾ると、イヨの顔が以前よりも明るく見える。 「ねえ、どう? 似合う?」  そわそわとしながら、鏡を持ってイヨはハテヒに訊ねた。 「お似合いですよ」 「わあい! クナギ、ありがとう」  イヨにそうお礼を言われたクナギは、はにかんだ。必要のないものは再び袋の中に入れられ、ハテヒに渡される。これらはいつか必要になった時に使えばいいと、屋敷の蔵に納められる。イヨが大きくなった時、改めて身につければいいだろうと、いっぱいになっていく蔵を見ながらクナギは満足顔になった。この屋敷の蔵に納められるものはほぼヤヤクやクナギたちが持ってくるものである。自分の働きがこのように溜まっていくことに、クナギは嬉しさを感じているのだろう。 「お気に召すものがあって、良かったです。また何かあれば持ってきます」  そうイヨに言い、クナギは立ち上がった。 「ハテヒとカジカにはこれかな」  蔵の前で待機していた、クナギに仕える男が取り出したのは、数多くの新しい剣と矛だった。銅で作られたものの中には、鉄で作られたものもあった。 「どうしたんですか、これ」 「父上が狗奴国から得たもの。不恰好だから要らないんだと。うちが持ってても意味がないし、損益にもならないから、あげる」  よく見てみれば、剣は少し歪んでいるところもある。ハテヒの持つ剣の方がかたちが良い。矛も形があまり良くなかった。 「狗奴国の造剣の技術はこれくらいなんだ。邪馬台国の南隣の奴国(なこく)の方が断然綺麗だし、そっちの方がいいな。どこから手に入れているのかは知らないけど、鉄はあるくせにもったいない」  万が一、剣が折れた時に使えばいいとクナギは言い残して帰っていった。  たくさんの武器を目にしたカジカは、その完成度はあまり気にしていなく喜んだ。 「あれ、イヨ様。そんなところで何をしているのですか?」  クナギたちを門まで見送り、屋敷に戻ろうと踵を返したハテヒが見たのは、畑のすみでうずくまっているイヨだった。髪飾りが夕方の赤い光を照らし、まさに太陽のようになっていた。 どうして畑のすみでじっとしているのだろうか。紅花の芽がもう出たのだろうか。ハテヒはイヨのそばに歩み寄った。 「ハテヒ、鳥がねんねしてるよ」  ねんね? ハテヒは首をかしげてイヨの背後からのぞき込んだ。  イヨの目の前には、見たことがない小鳥が一話、地に横たわっていた。この辺りでは見かけない鳥で、名前も知らない。 「どこから飛んできたんでしょうか」 「ずっと起きないの。だからイヨがずっと見ているの」  じっと鳥を見つめて動かないイヨを見て、ハテヒは、ああ、と思う。イヨはまだ死というものを知らないんだということに気が付いた。イヨにきっぱりとスヒリが命を落としていることを伝えてなく、イヨも母が居ないことに疑問を持っていなかったために、ずっと言えずにいたのだ。  けれど、イヨが本気で小鳥を守るように座っているので、ハテヒは後ろでただ見ているだけにした。  翌日になっても、目を覚まさない小鳥をじっと見守り、いつまで経っても起きない小鳥にイヨは不思議に思ったのかハテヒに訊ねる。 「ねえ、どうしちゃったのかな」  病気かな、と、イヨは涙ぐむ。ハテヒはその隣にしゃがみ、イヨの涙を拭った。 「墓を作りましょう」 「お墓?」  ハテヒが持ってきたのは、小さな甕2つだった。イヨは良く分からないままハテヒがすることをじっと見る。 「その小鳥は、神様の元へ旅立ったのでしょう。イヨ様のお母様が居る場所です」 「お母様?」  甕の中に小鳥を寝かせ、近くに咲いていた花を入れる。  ハテヒは立ち上がり、スヒリの墓まで向かった。ハテヒの袴をぎゅっと握り、イヨは黙って着いてくる。 「ここ、なあに?」  土が盛り上がっている場所を見て、イヨはハテヒを見上げた。 「イヨ様のお母様が眠る場所です」 「へえ。お母様はずっとここでねんねしているの?」  ハテヒは頷いた。  スヒリの墓から近いところに穴を掘り、甕棺を入れる。イヨが土をかぶせた。 「お母様には、会えないの?」  盛った土の上に、また花を添え、イヨはスヒリの墓にも花を添えた。 「イヨ様が産まれた時、スヒリ様はお休みになられました。それから、小鳥のようにずっと目を覚まさなかったのです。もう誰も会うことはできません」  ハテヒに抱かれたイヨは、ふうんと頷き、墓を見つめた。 「でも、ここに来たら、ごあいさつはできるわ。明日も、明後日も、毎日きましょ。イヨ、お母様に元気よって、言うの」  イヨはそう笑って言った。 「そうですね。スヒリ様も喜ぶと思います」  イヨは一体、どのような母を想像するのだろうか。そしてトクのことを話す日はいつくるのだろうか。  ハテヒは、イヨに黙って隠しているスヒリの手紙を渡す時が来るのが近いことを感じていた。何を書いているか分からないが、スヒリのことだからきっと、大切なことをしたためているに違いないと、自分の寝室にひっそりと置いてある手紙を思い出した。  それから、季節は変わり、紅花の咲く時期となった。  ここのところ、ずっと1人でスヒリの墓を訪れていたらしいイヨが額に汗を浮かべて、大慌てでハテヒの元へ飛び込んできて叫んだ。 「ねえ、ハテヒ、きて! お墓から、お花が咲いたわ!」  ハテヒの手をつかみ、一緒にきてとイヨは走る。 「待ってください、イヨ様、行きますってば」 「早くきて! 見たことがないお花なの!」  手を引かれるままにハテヒが行くと、イヨが「ほら!」と小鳥の墓を指さした。 「大きいでしょ? イヨがずっとお水をあげてたのよ」  それは、ハテヒよりも高い背を持つ、黄色の花だった。  イヨの大好きな黄色の、大きな花だった。茎は太く、葉もイヨの顔ほどの大きさをしていてずっしりとした感じな花だ。2本並んで空に向かって伸びていた。  スヒリの墓の隣に見たこともなく、名前も知らない花が咲き、イヨはとても嬉しそうに見上げていた。

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