異世界転移少女は世界平和を目指す殺し屋と出会う『赤髪のトライアングル』

読了目安時間:7分

第5話

 海を越え、山を越え、東の果てにツバキの故郷の国はある。  数年ぶりの里帰り。  オロチを封印されているせいで、腫れ物扱いだったから実家に良い思い出は少ないけれど、それでも唯一の故郷だ。  親しみや懐かしいという気持ちはある。  オロチに負けないため、血のにじむような努力をしてきた。  オロチを倒すため、全てを犠牲にしてきた。  オロチを殺すため、強くなった。  それなのにあの男には到底力及ばなかった。  仮面のあの男、あれの力は異常だった。  後ろ手に拘束され、失意の底へ沈んでいくツバキ。  十五年の人生は、全て無駄だったのか。  ただただクシダの器としてしか、存在価値は無かったのか。  その時、プツンという音が聞こえて、意識が消える。  次に意識が戻った時、ツバキは真っ暗な世界にポツンといた。  立っているのか座っているのか認識できないが、視界だけははっきりとしている。  視線の先には、さっきまでいた屋敷の光景。  そこに映っていたのは残らず処刑された仲間たちと、無惨にも倒れ伏している敵たちだった。  目の前に広がる凄惨な世界。  これは一体――。 ◇  北東との境界線である山から、一時間。  荘厳な屋敷が立ち並ぶ高級住宅街は、日没が近づいている事もあってか、近寄りがたい雰囲気を放っている。  立派な空箱だけが残されているこの町を抜けていき、イーサンは目的の屋敷の前に車を止める。  車を降り目の前の屋敷を見ると、異様な雰囲気と何かが走り回っているような足音が聞こえてくる。  そして屋敷から突然、顔を真っ青にした二人の男が飛び出してくる。 「た、助けてくれ!」  悲鳴を上げながらイーサンの方へ駆け寄ってくる二人。  その無防備な背中に、屋敷の中から飛んできた何かが深々と突き刺さる。 「お、おい大丈夫か!?」  一瞬のうめき声を上げたのち二人は絶命した。  その背中に刺さっていたのは、青銅剣だった。  乱暴に開け放たれた扉からは、中の状況を想像するのに難くない強烈な血の匂いが漂ってくる。  そして壮絶なプレッシャーに、イーサンはつばを飲む。 「怖い?」 「あぁ、怖いさ。だが同時に思った。あれを止められるのは俺たちだけだ」 「そうだね」  小さく深呼吸をして屋敷へ入ると、中は想像した通り真っ赤で凄惨な光景が広がっていた。  人質だったカーヴァーファミリーの構成員と、おそらく誘拐犯たちの死体が、広間に所狭しと並んでいる。  そして屋敷の最奥、階段に一人の少女が腰かけていた。  腰ほどまで伸びた長く、濃い緑色の髪は、ハーフアップにまとめられ、その先にあるお団子部分には、赤い花があしらわれたかんざしが刺さっている。  紅の袴と白い衣――巫女服をまとった少女、つまりイーサンたちが助けにきたツバキその人なのだが、知っている雰囲気とは異なっていた。  魔術には感覚も技術も疎いイーサンであったが、ツバキから放っている雰囲気が、人ならざる者である事だけは、はっきりと理解できた。 「我が名はオロチ。神の前にひれ伏すがよい、人間」  音が重なったような声を上げながらツバキはゆっくりと立ち上がる。  強風が吹いてきたような威圧感がイーサンを襲う。  本能的に噴き出てくる冷や汗をぬぐい、刀をベルトに差す。 「俺はイーサン・ベイカー。世界を滅ばされる訳にはいかない。その体、ツバキに返してもらうぞ」 「人間風情が無礼な。その罪、貴様の命一つでは足りぬと思え」  オロチがそう言った瞬間、イーサンの頬を青銅剣がかすめる。  反射的に回避していなければ、今頃首が胴体とお別れしていただろう。 「ほう、避けるか人間」  そう言って両手を大きく広げると、オロチの周囲に七種類の青銅剣が出現する。 「アラン、さっきの追えたか?」 「ギリギリ。だけど何回もは無理」 「同意見だ。協力して一気に叩くぞ、持久戦はこちらが不利だ!」 「了解!」  左右に展開し、飛んでくる青銅剣を回避する。  次々と飛んでくる青銅剣の間をくぐり抜け、ようやく懐まで接近する。 「そこだ!」  抜刀し、そのまま切りかかるが、イーサンの刀はすんでの所で青銅剣で止められる。  さっきから飛んでくる青銅剣とは違い、ツバキの身の丈ほどの長さで、太刀のような青銅剣だ。 「甘いな、人間」 「くっ!」  オロチが手を振るうと強烈な力で吹き飛ばされる。  同じように吹き飛ばされたアランと合流する。 「ノーモーションで飛んでくる必殺の剣に、近づいても簡単に対応され、それどころか致命傷を負わされる危険がある。神の力ってのはズルいな」 「どうすれば勝てる?」 「それを今、考えてるんだよ!」  飛んできた青銅剣を刀で弾きながら答える。  最大限に力を分散させる角度で弾いたはずなのに、それでも分散しきれなかったのか手がしびれる。 「いくら考えようとも無駄だ。神と人間では文字通り格が違うのだから」 「だろうな。だけど人間が神に勝てないって道理もない」 「何だと?」  オロチは不愉快そうに目を細める。 「俺はイーサン・ベイカー、お前を倒し世界を救う男だ。体もツバキに返してもらう。俺があの戦争でどれだけの神を殺してきたと思ってる!」  そう言って刃先を真っすぐとオロチに向ける。  この刀で必ずお前を討ち取る。  これはその意思表明だ。 「ほざくな、人間」  オロチは面白くなさそうに手を振るう。  さらにスピードを上げた青銅剣を何とか回避する。 「アラン! 一秒でいい、一秒だけ俺に時間をくれ!」  イーサンはオロチに必殺の一撃を叩きこむべく、突っ込んでいく。  その意図が伝わったかどうかは分からないが、アランは深くうなずき、腰のポーチから宝石を取り出す。  青く光り輝いている宝石だ。  そしてその宝石をアランは、魔法剣のつばの部分にあるくぼみにはめ込んだ。 「行くよ、魔術発動!」  そう言ってアランが魔法剣を構えると、刀身部分から冷気があふれ出す。  前を走るイーサンの空気まで凍ってしまいそうな、強烈な冷気だ。 「青の宝石よ、堅牢なる氷の盾を生み出せ、ハードアイズシッド!」  真っすぐオロチへ向かって突っ込んでいくイーサンに向かって、青銅剣が飛んでくる。  しかしそれは、アランの魔術によって生み出された氷の盾により弾かれる。 「その程度、児戯にすぎん」  一、二、三本目の時点で氷の盾は破壊される。  氷の破片の中を突っ切ってなおも直進するイーサン。  このチャンスを逃さんと、刀を握る手に力が入る。 「いいや、これで一秒、これで十分だ!」  氷の破片を抜けると、迫りくる四本の青銅剣。  それを突破し、オロチに必殺の一撃を叩きこむ唯一の方法。  それは今この場で、イーサンが持つ刀を最大限活かす剣術を編み出すことだった。 (順番に迫ってくる四本の剣、それを弾きつつなおかつ速度を殺さず直進、そして本体に攻撃するためには……)  その時、体に一筋の電流が走った気がした。  走馬灯にも似た、この感覚に身を任せてイーサンは刀を振るう。 「はぁ!」  飛んでくる青銅剣の勢いすらも自分に乗せて、オロチの懐に接近する。  怒りで表情を歪ませ、太刀のような青銅剣を振るおうとするが、 「遅い!」  青銅剣は空を切り、イーサンは切り抜ける。 「な、何なのだこれは……!」 「ベイカー剣術、参の型・応じ術ファブナーハルプモーント。って所かな」  ゆっくりと刀を鞘にしまい、振り返る。  その動作がオロチには勝ち誇っているように見えたのか、さらにうめき声を上げる。 「覚えたぞイーサン・ベイカー! 貴様は必ず我がころ――!」 「もう黙れ。その体はツバキの物だ、お前のじゃない」 「ぐおおぉ!」  徐々に小さくなっていくうめき声。  それが聞こえなくなると、途端に力が抜けたようにツバキが倒れてくる。  体を優しく受け止め、床に寝かせてやる。 「やったね、イーサン」 「おう、ぶっつけ本番だったけど、案外どうにかなったな」 「何とか剣術って奴?」 「ベイカー剣術だ。達人同士ではコンマ一秒の隙の取り合いになるからな。ああやって剣術としてまとめる事で、思考経路の短縮をしてるんだ。実際、今回もそうやって乗り切ったしな」  そんなことを話していると、遠くからエンジン音が近づいてくる。 「カーヴァーの応援が来たかな。帰るか、アラン」 「うん」  アランはこくりとうなずく。 「まさか誘拐事件の結末が神の討伐になるなんてな」 「でもどうにかなった」 「あぁ、そうだな」  屋敷を出ると、すっかり日は沈み空には星が出ていた。  人気のない町に吹く冷たい風が、火照った体に気持ちいい。 「そういえば」 「うん?」  ぼんやりと夜空を眺めていると、アランが何かを思い出したようだ。 「甘いの、何か買ってね」 「あ……」  アランがネクタイの方を見ながらそう言った。  昼間、ネクタイをきちんと締めるようにアランが言ってきたのを、適当に誤魔化したのだ。 「……分かったよ、一個だけだぞ」 「うん」  そう言ってアランの頭を撫でる。  一仕事終えた二人の男を、月明かりが照らしていた。

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