異世界転移少女は世界平和を目指す殺し屋と出会う『赤髪のトライアングル』

読了目安時間:6分

第13話

「イーサン、前!」 「っ! やっぱりか!」  視界を前に戻すと、目の前の道路を封鎖するように帝国軍のトラックが止まっていた。  イーサンは慌ててハンドルを切り、ドリフトするように減速させる。  急ブレーキを踏んだので、車内を襲う衝撃はとんでもなかったが、何とか少し離れた所に車を止めることができた。 「こいつらは、さっきの奴らとは違う。油断するなよ」 「了解」 「……はい」  細心の注意を払って車を出る。  するとトラックの荷台からレールが降りてきて、二体の機械人形が運ばれてくる。  そしてゆっくりと体をこちらへ向けると、頭部にあるカメラをキラリと光らせる。 「話では聞いたことはあるが、こう対面すると威圧感があるな……!」  大きさは二メートルを超すくらいで、鎧のように装甲が取り付けられている。  人形が鉄の鎧を着ているとは、正に的を得た例えだろう。  そして左手にはサーベルを、右手に通常であれば二、三人程度で運用するはずの重機関銃を持っている。  重機関銃から伸びる弾帯は背中の小さいコンテナへと繋がっている。  重機関銃はその重さや取り回しの悪さゆえに、複数人で運用されている。  つまりこの機械人形には、そんなじゃじゃ馬を単体で、しかも効果的に運用できる程のパワーを備えているのだ。 「殺気が感じられない。とすれば信じたくないが……」 「はい、あれは無人です。あの時も一体は切りましたが、中身は機械しかありませんでした」  ツバキが苦い顔をしながら言った。  数日前の誘拐事件でも、帝国軍はこの機械人形を使用したのだ。  ツバキほどの腕前を持つ人間であっても、あの狭い連絡船で一斉掃射を避けながら戦うのは困難だったのだろう。 「人造脳機構搭載人型戦闘機一型・シュヴェールトアイン」  そう言いながら音もなく現れたのは、全身をマントで覆い隠した人間。  以前、北東との境界で遭遇した仮面を被った男だった。 「やはり貴様とは再び出会う運命だったようだな。イーサン・ベイカー」 「俺は会いたくなかったけどな」  この仮面はずっとよく分からないことを言っているが、放っている緊張感は普通のそれではない。  手加減して勝てる相手ではない。  それはこの前戦った時、十二分に理解した。 「二人は機械人形を頼む。俺はあの仮面男をやる」  そう言って刀に手をやる。  そしていつでも抜けるように、腰を低く落とす。 「了解、任せて」 「はい、二度後れを取る気はありません」  アランは左側、ツバキは右側に立ちそれぞれの敵と見合う。  同じ状況だからこそ、先に一人倒した方が圧倒的有利となる。  それと同時に、一人倒れた時点でどちらかの陣営は撤退せざるを得なくなる。 「死ぬなよ、二人とも。俺は仲間を……二人を失いたくない」 「分かってる。それがイーサンの命令なら、死んでも果たす」 「私もこんな所で死ぬ訳にはいきませんから」  頼もしい二人の声を聞いていると、自然を笑みがこぼれてくる。  心なしか少し固まっていた体もほぐれた気がした。 「あぁ、そうだな。行くぞ!」  自分を奮い立たせる雄たけびにも似た声を上げ、突っ込んでいく。  同じタイミングで仮面も突っ込んできたので、中心くらいの位置で刀とサーベルがぶつかり合う。  激しい火花と耳をつんざくような金切り音。  これほど強い力でぶつかり合い、そしてそれが何度続いたとしても、お互いの相棒は全く刃こぼれやヒビが入る様子はない。  ここからも、二人の実力が常人では考えられないものであることが、うかがい知れるだろう。  仮面が一瞬見せた隙を逃さず、イーサンは払うように刀を振る。  だがそれはジャンプで避けられてしまう。 「もらった!」  しかし足元を狙った低い払いはイーサンのブラフで、本命は空中にいる仮面に向かって逆袈裟切りの要領で振るうことだった。 「……甘い」  しかしイーサンの刀は仮面の履くブーツの底で止められ、そのまま距離を取られてしまう。  こうなれば再び距離を詰める所から仕切り直しとなる。 「やっぱりこの太刀筋どこかで……。誰なんだお前は、まさかどこかで一度会ったことがあるのか?」  イーサンの問いに仮面は少し考えるように立ち止まり、そして向かってきた。  振り下ろされたサーベルを受け止め、刀同士がこすれ合う。 「貴様に語る必要はない。だが剣は我が舌よりも雄弁に語るだろう」 「面倒くさいことを! 口があるなら、口で喋りやがれ!」 「貴様と語り合う舌など持ち合わせていないと言っている」 「なら初めからそう言えばいいだろう!」  刀とサーベルがぶつかり合うように、二人の舌戦も激しさを増していた。  当然ながら仮面を被りサーベルを振るってくる知り合いなどに、心当たりはない。  だが昔、こんな風に命を取り合いながら面倒くさい会話をした覚えがある。 「くそっ、気持ち悪い感覚だ」 「失礼な男だ」 「誰のせいだと!」  接近と離脱、地上と空中とを繰り返しながら、互いに一瞬の隙を狙いあう。  イーサンが取ったと思った隙は必ず消され、仮面による必中の一撃をイーサンは回避する。  いつまでも続くと思われた達人同士の戦いは、しかし突然終わりの瞬間が訪れる。  仮面の視界には二体の機械人形が撃破された光景が、イーサンにはカナデが車の近くで立っている光景が映った。  イーサンの目線が変化したのを察知したであろう仮面は、即座に後ろへ飛びカナデを肩に担ぎあげてしまう。 「今日はここでお開きとさせて頂く。シュヴェールトアイン!」  仮面がそう言った瞬間、トラックから二体の機械人形が飛び出してくる。  そしてイーサンたちに襲い掛かってくる。 「おい、待て!」  襲い掛かってきた機械人形のサーベルを受け止めているイーサンの隣を、凄い勢いで仮面が通り過ぎていく。 「くそっ、邪魔をするな!」  大振りのサーベルを避けながら、重機関銃を蹴り上げる。  しかし隣の機械人形が即座にカバーに入ってくるので、突破ができない。 「このままじゃ!」  ぐんぐんと離れて行く仮面。  担がれているカナデの心配そうな表情。  イーサンはグッと奥歯を噛みしめ、打開策を考える。 「こいつらは任せて」 「はい、イーサンはカナデさんを追ってください!」  そう言いながら、アランとツバキが機械人形に切りかかっていく。 「……あぁ、任せる!」  三十メートルは離れているが、向こうは人を背負っている以上、まだギリギリ追いつくだろう。  既にゆっくりと走り始めている車に、仮面が飛び乗ってしまえば、いくらイーサンでも追いつくことはできない。 「そんなこと……させるか!」  姿勢を低くし、できる限り空気抵抗を減らす。  あとは少女を目指して、ひたすらに足を動かすだけだ。 「カナデ! お前は俺が……!」  グッと伸ばされたカナデの手を目指して、イーサンも精一杯手を伸ばす。  もう少しで手が届く、その瞬間急に手が遠のいた。  仮面がトラックの荷台に飛び乗ったのだ。  指先が触れ合うような距離だったのが、どんどんと離れて行く。  人力で車のスピードに追い付ける訳はない。  だが、こんな所で諦める訳にはいかない。  助けてと、自分を頼る人間を見捨てる訳にはいかないのだ。 「まだだ……届けぇ!」  姿勢を維持するのを諦めて、ただカナデを目指して手を伸ばす。  そして遂に、指先が暖かい感触に包み込まれる。 (届いた!)  後は引き寄せるだけ、その瞬間視界が突然真っ暗になる。  気づけばイーサンは、後方へ大きく吹き飛ばされていた。 「がはっ!」  猛スピードで離れて行く荷台、そこにはその場に膝を着く仮面、手を伸ばしたまま唖然としているカナデ。  そして突っ込んでくるイーサンの顔面に叩きこんだであろう、機械人形の右手。  地面に叩きつけられてなお、勢いを殺しきれず地面を転がっていく。  ようやく止まった時には、既に車は点のようになっていた。 「かな……で、君はお、れが……」  脳への強い衝撃を受けたからか、回転している歪な世界が映る。  そんな世界でイーサンは手を伸ばし、そして意識を失った。

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