脱法勇者

読了目安時間:5分

エピソード:6 / 109

つめ切り持つのも違法です

>  【勇者規制法ガイドライン、日常の行動の制限】 >  【はじめに】 >勇者のみなさんへ。 >このガイドラインは、勇者認定されたみなさんに向けて作られたものです。 >あなたたちの能力は、かつては人々の希望でした。 >ですが、この平和になった世の中では脅威となっています。 >ともに、あなたたちの英雄性から社会を守っていきましょう。 >ここでは、勇者規制法の内容から、みなさんの日常生活で「してはならないこと」をまとめています。 >法律の知識がない勇者の方にも、わかりやすく解説しました。 >以下のガイドラインにしたがって、わからない点は担当の勇者監督官(以下、監督官)に確認して、いつも合法的に生活するように心がけましょう。 >監督官の権限について: >監督官は必要に応じて、勇者に注意・行政指導・行政命令をすることができます。 >監督官の注意に対して、勇者は従うよう努力しましょう。 >努力が足りないと監督官が判断したばあい、監督官は行政指導をします。 >監督官の行政指導について、勇者はこれに従う義務をもちます。 >従わなくても罰則はありませんが、従わない場合、監督官はこれを行政命令とすることができます。 >監督官の行政命令は、あなたの所属する行政区の首長の勅令、あるいは地方裁判所の裁判結果と同等の拘束力を持ちます。 >従わない場合は、違法行為となります。 >監督官はこれを勇者監督庁に届け出ることで、中央裁判所での裁判にかけることができます。 >また監督官は、担当する勇者の軽微な違法行為に対して、罰金または始末書の提出を裁判なしに課すことができます。 >不服申し立てについて: >これらはとても勇者のみなさんに不利な法律に思えるでしょうが、ご安心ください。 >勇者はこれに対して不服申し立てを行うことができます。 >いちおう。行うことができます。 >不服申し立ての窓口は、担当する監督官です。 >なお、監督官はこれを却下できます。  アルルはとうとうと読みあげ、重要な部分をリクに復唱させる。 「あのさあ。その法律は何度も聞いたから知ってるけどさ」  リクが口をはさむ。 「なんだ? 何度も聞いたなら今回も聞けばいいだろ」 「前から」 「前置きはいいからはやく言えばいいが」 「この法律って、勇者に超不利だよね」 「そうだが?」  二人はしばらく顔を見合わせていた。  それからアルルがにやっと笑う。 「大丈夫だぞ。私がリクをむやみに困らせると思うか?」 「わりと」 「わはは。大丈夫だって。悪いようにはしないわよ」 「……」 「続き、読むぞ。ここまでは前置き。ここからが重要だが」 >  【日常の行動について】 >日常用でも刃物を使ってはいけません: >連合王国のすべての臣民は、武器規制法により、あらゆる武器類の所持が原則禁止されています。 > ※ここで武器とは、日常生活・農業・狩猟などに使う目的でない、他者への攻撃に使用できる道具です。 >所持する場合は申請が必要です。 >もちろん、勇者もこの規制の対象です。 >勇者とはいえ、わたしたちとともに生きる国民にちがいはありません。 >勇者のみなさんは、さらに日常生活でも刃物を使ってはいけません。 >ここで日常用の刃物とは、ステーキナイフ・果物ナイフ・包丁・薪割り斧・彫刻刀・くわ・はさみ・かみそり・爪切りほかすべての金属製品と石器です。 > ※詳細はガイドライン付帯のリストを参照のこと。 >たかが日常用の刃物とあなどってはいけません。 >勇者のみなさんがこれらを使用した場合、短剣スキル・長剣スキル・斧スキルなどの戦闘スキルが向上する可能性があります。 >戦闘スキルはもっとも重大な勇者リスクであることを忘れてはいけません。 >また、日常で刃物を使用していると、刃物の使用に抵抗を感じなくなってしまいます。 >これくらいいいだろう。 >平気だからこれくらい大丈夫だろう。 >そんなサイクルの結果として、はじめは軽い気持ちから始まったはずの行動が、銅の剣や鋼鉄の剣、ゆくゆくはドラゴンキラーや伝説の剣などまで手にする結果となるのです。 >これをゲートウェイ理論と言います。 「はさみはまだわかるけどさあ」  リクはため息をつく。 「爪切りまで禁止なんだもんなあ。あれ、なんで?」 「んー。わからんが」  アルルは小首をかしげる。 「むかし爪切りで戦った勇者でもいたんじゃないかな」 「いるわけないだろ! そんな変なの!」 「まあな。たぶん。爪切りだっていいわけして武器を持たないようにするためにリストに入れてるわけだ。爪切りもでっかくしたらギロチンだからな」  アルルは手にした本を自分の首にあてて見せる。  確かにな。とリクは少し納得してしまう。 「だいたい、エリシアさんなら、ハサミでドラゴン倒すぐらいできるだろ」 「そりゃ、母さんならね。っていうかドラゴンぐらい素手で」 「ほらあ」  リクはなかば納得しつつも果敢に反論する。 「爪も自由に切れないのってさあ」 「べつに困らないだろ。わたしが切ってあげてるわけだが」 「それがイヤなんだよ」 「なんだと」 「けっこう気まずいんだよ! あれ!」 「わたしはわりと楽しいがな」  子供のころから爪を切ってくれるのはアルルだった。  そのことが急に気恥ずかしく感じられてきたのは、わりと最近のこと。  アルルが自分の指に手を添えて爪を切るあいだ、彼女のきれいに櫛のかけられた髪の分け目を見て、手持ち無沙汰に待つ。あの時間の居心地の悪いことときたら。爪が伸びてくると、そのことばかり考えるようになるほどで。 「16歳になったんだから、それぐらいやらせてよ。ほかの勇者監督官だって、そういうのは見て見ぬふりでごまかしてるんでしょ」 「考えておく。いいから。ほらつぎ!」

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