脱法勇者

読了目安時間:7分

エピソード:56 / 109

だから違法だって言っただろ

 納屋から息をはずませ、箱を持って帰ってきたリク。  その箱は横に長く、貝のように開く作りだ。明るいところで見ると、なかなか上質なものであった。赤っぽいニスが塗られ、美しい木目が浮かんでいる。 「中身なんだろうなあ。楽しみだなあ。剣とかかなあ」 「剣だったら違法品だっての」  遅れて家に入ってきたアルルが言う。   「なんだと思う?」 「ん。楽器かなんかじゃないか? 家で演奏するぶんには合法だ」 「楽器かあ。まあいいか」  リクはアルルの答えにいくぶんがっかりしたが、それでもまあいいだろう。  冒険者の中には、楽器を旅の友とした者も多かったと聞く。  両親が楽器を演奏したという話は聞かないが、仲間の誰かがそうだったかもしれない。 「リリヤさんは何だと思う?」  いつのまにか後ろにいたリリヤに、リクが問う。  リリヤの神出鬼没にもだんだん慣れてきた。 「ボードゲームのたぐいではないでしょうか」 「なにそれ?」 「冒険者って、わりとヒマが多いもので。仲間が集まらないときとか、自分に向いた話がないときなんかは、町でゲームをして時間をつぶすなんてよくあったものです」 「ヒマか。冒険者なんて実質無職なわけだからな」 「案外役に立つものです。性格が出ます。ゲームで騙す者は、現実でも隙があれば騙します。ムキになる者もいれば、引き際をわきまえる者もいます。とくにお金を賭けるとはっきり出ます。だれがどういうときにふさわしいか、わかるものです」 「仲間選びに使ってたんだ」 「まあ。そうですね」 「無職の理屈だが」  冒険者は無職みたいなもの、というアルルの言葉で、リクはティステルを思いだす。 「そういえばティステルさんは?」 「今日は弟のお付きだ。ご指名でな」 「ああ。スカイル君」 「うん。うちの弟、最近なんか忙しそうなのだ。前は夜にふらっと出て戻ってくるぐらいだったんだけどな。夜に散歩するクセがあるわけだ」  その夜のやつ、うちに遊びに来てるんだよ。とは言えない。  いちおう彼の「道楽」はアルルには内緒なのである。  そういえばシルク――女装したスカイル――は最近来ていない。自分が知る範囲以外でも、いろいろ糸を引いて。……いや、手を尽くしているのだろう。 「どこに行ってるか、ティステルに言ってもぜったい口を割らないんだが、わたしの勘では、あれは女の子関係だが」 「女の子関係?」 「スカイルのやつ、最近は部屋に大きな鏡を置いたりしてな。わたしが訊いたら『ボクが吸血鬼だという噂があるので、そのせいです』なんて言い訳してるのだが」 「そんな噂あるんだ」 「うん。でもぜったい違うぞ。好きな子でもできたわけだが」  アルルはひとりで盛り上がり、天を指さすようなポーズをとる。 「女だ! ようするに色気づいたわけだが!」 「アルル様、もう少し言い方を」 「お父様もそう思ってるみたいで、心配と安心が混じったような感じなわけだが。変な女ではないといいがとかぶつぶつ言ってるわけだ」 「ふ、ふーん」 「しかし……本物のヴァンパイアは鏡にも映りますけどねえ」  リリヤがぽつりと言う。 「リリヤ、そんなのどうでもいいぞ。それよりお茶の準備だが」 「はい。ではお湯を準備してきますね」 「ヴァンパイアなんか、もうこの町にはいないわけだが。昔話だぞ」  リリヤは台所に行く途中、ごく小さな声でリクに言った。 「……ウェアウルフはいますけどね」  アルルには聞こえなかったようだ。彼女は茶器を棚から出している。  お茶に湯が注がれたころ、ヴァスと、その肩に乗ったゼストリエルが来た。 「ずいぶん遅かったわけだが」 「少し話があってな」 「……あれ、なにか待ってた?」  ヴァスはテーブルの上の箱を見やる。 「箱の中身の当てっこをしてたわけだが」 「ヴァスさんは中身、なんだと思う?」 「今、思いだした……知ってるから黙っておく」 「そうなんだ。開けるね」  リクは箱の留め金に手をかけた。  箱を開くと、白銀の美しいきらめきが現れる。  そこにあったのは、銀で作られた美しい―― 「ナイフ、フォーク、スプーンのセットだ」 「わー……」 「なんだその低いテンションは」 「だって、ただのスプーンとフォークとナイフじゃん、これ」  そう。箱の中に入っていたのは、ただの銀製食器だった。 「ただのとはなんだ。連合王国の成立と、王が諸侯によってつつがなく擁立されたことを祝い、記念として首長ほかに配られた銀食器のセットだぞ。非常にやんごとないものである。王に不敬であるぞ」  たしかに高級品なのだろう。銀食器のひとつひとつに細かい細工が入っている。  柄の部分には、連合王国のもとになったそれぞれの地域の紋章が入り、またその土地の名士らしき肖像が掘りこまれている。  アルルがリクの肩ごしにそれをのぞき込む。 「あー、うちにもあるやつだが、これ」 「ニンフライト家にも下賜されたであろうな」 「……うちにもある」 「うちでもこれ、しまってあるな。使ってるの見たことないが」 「私も使ってない」  ヴァスとアルルも、リクにつられてテンションが落ちたようだ。 「……やはりか。ふだん使うには畏れ多いだろうからなあ」 「王家の紋章の入った食器で食事してたら、落ち着かないわけだが。お客さんが来た時に出したら、なんか自慢みたいになるし」 「アークとエリシアも同じく持て余したと見えて、あの納屋に置いてそれっきりだ」 「父さんも母さんも、あんまり財宝とかに興味ないもんね。邪魔だったんでしょ」 「……正直、うちにあるのもちょっとジャマ」 「ものがものだけに、コボルトやらに売り飛ばすわけにもいかないからな」 「……というか、自分の顔の入った食器で食事したくない」  ヴァスはその中のテーブルナイフのひとつを拾いあげる。  そこには、エルフ自治区を現す樹の紋章と、彼女自身の肖像が掘りこまれていた。 「あ、うちの両親もある」  リクは食器の肖像を順繰りに見て、その中にアークとエリシアの肖像を見つけた。  夫妻ということで、フォークとナイフで対にされているようだ。  リクはなんの気なしに、フォークのほうを手に取る。リクの母親、エリシアの横顔が、現実よりかなりおしとやかそうな感じで彫刻されている。 「勇者リク! 違法行為だぞ! そんなことしていいと思ってるのかっ!」  アルルが間髪入れずに言う。 「ぐはっ」  勇者の紋章が発動した。  手の甲の紋章が光り、リクの全身がしびれ、倒れる。  さすがに三回目ともなると慣れて……いや、慣れられない。紋章が発動すると、身体の感覚をほとんど完全に失ってしまうようだ。意識ははっきりしているが、失神したのも同然だ。  崩れ落ちるリクを、ゼストリエルがぽかんとした顔で見つめる。 「……なんでフォークが違法なのだ?」 「こないだ違法になったからだ」 「どういう理屈で立法されたのだ? それは」 「国の偉いやつがバカだからなわけだよっ!」  アルルはフォークを元の場所に戻し、あてつけるようにそれらの紋章を指さしていく。 「お前の時代の勇者とは何もかも違うわけだが!」 「アルル! 解除先にして!」 「あ。わすれてた」 「忘れるなよ」 「すまんすまん。監督官アルル・ニンフライトの権限により、勇者リク・アークウッドの継続スタンを解除する」  自由に動けるようになった。 「リク、とりあえず座れ」  アルルが椅子を引いてくれた。座る。もう気分はいい。  慣れてきて、解除された時の復帰は早まった。どうやら、魔法で拘束されたときに無理に動こうとしないのがコツだ。こんなことに慣れるのもどうかと思うが。  リクは食器の入った木箱を大事そうに閉じ、掛け金をかける。 「最初がっかりしたけど、よく考えたら、この食器も勇者グッズとしてはなかなかレアだよね。限定品っぽいし。もう僕のだ。返さないよ」 「……ったく。まあ。持つだけならいいわけだが」 「結局、気に入ったのね」 「食器はそれでいい。しかし」  ゼストリエルは興味深げに、リクの身体に浮かび上がった紋章を見た。 「……ふむ。やはり強力なエンチャントだな。付呪の全体的な強さで言えば、私の身体にかかった呪いにも匹敵するだろう。大した術者だ」 「ゼストリエル。ちょっとは心配してよ」 「そうだぞ! ちゃんとリクを心配してやれ!」  アルルがいくらか筋違い気味に怒る。 「まあいい。とりあえずお茶するぞ。濃くなりすぎるが」  アルルはむくれ気味にお茶を注ぎはじめる。  今日のお菓子は、干した木苺と炒ったナッツを焦がし砂糖で固めたものだった。 「ふむ……人間、菓子作りについては評価できる」 「ですねえ。人間のお菓子はおいしいですよね」 「容赦なく甘いのがいい……欲望に忠実よね」  エルフの二人組はそんなことを言いながら、まだ熱いお茶を一気に飲んでいた。 「ゼストリエルはなにか食べるの?」 「うむ。そうだな……」  そこまで言いかけて、ゼストリエルは突然、短いうめき声をあげて硬直した。  胸をおさえるような動作をする。 「どうしたの! ゼストリエル!」 「大丈夫か?!」 「だ、大丈夫だ。少し外に出る。追わずともよい」  そう言い残すと、ゼストリエルは部屋の外に駆け出した。

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