脱法勇者

読了目安時間:5分

エピソード:62 / 109

ようするに既得権益ってやつでさ

 ほどなく衛兵が来て、リクたちは彼らの詰所に連れていかれた。  その詰所は防壁の居住塔を利用したもので、窓も小さく、湿っぽく汗くさい空間だった。  らせん状の階段は細く、段の高さがひとつひとつ違った。  リクは危うく足を踏み外しかけ、ローランに背中を支えられるしまつだった。 「はは。まるでレディだな」  ローランはそう言ってリクの背中を押し戻す。  リクは格好がつかず、むっとしたので礼を言いそびれて、それを後々気にした。 「防御施設だからな。窓が大きければ外から射られる。階段が登りにくいのも、慣れない侵入者が不利になる仕掛けだ。リク、こけるなよ」  そうゼストリエルは説明していた。その直後に足を踏み外しかけたのだが。  石段は妙に足が滑った。ビールでもこぼしたのか、妙にぬるぬるした。  まったく。掃除ぐらいしろよな。などとリクは内心ふてくされたが、ローランに認められなかった気がして口惜しいのが本音だった。  二階で事情を聞かれたが、取り調べ室といった趣ではなく、ふだん衛兵たちが食事に使うようなテーブルに座らされた。  端的に言って、あまり居心地のいいところではないのだが、衛兵たちはおおむね親切だった。とくにローランに対する扱いは丁寧なもので、敬意すら感じさせた。 「ローラン様だ」 「あれが【首狩り大将】か」 「思ったより若いな」 「大将老けてねえなぁ」  衛兵たちがささやき合う。  一部はローランをよく知っているふうだった。もと傭兵かもしれない。  なぜかハンカチを噛んで涙ぐんでいる者もいる。 「あの坊主は?」 「アークウッドの子だ、あれも勇者だ」 「勇者が二人も」 「俺たちとどう違うんだ」 「何もかもだよ。化け物と戦えばわかる」  彼らはローランの顔を見ようと、わざわざ入れ替わりやってくるようだった。  やっぱり英雄として人気があるんだな、とリクは実感する。  毀誉褒貶あるとされるローランだが、貴族に嫌われているから大っぴらに褒められないだけで、大衆の間での扱いはおおむね「英雄」のようだ。 「その。一応お聞きしますが、ローラン様」 「うん?」 「その剣ですが、許可証は……ええその。すみません」 「持ってるよ」  取り調べ役に当たった老年の衛兵は言う。もはやどちらが調べる側なのかわからない。  ローランは甲冑の内側から厚手の封筒を取り出した。中には武器の所持許可証が入っていた。  彼がそれを一応といった風に確認するのを、リクは盗み見る。剣・長剣・大剣・ダガー類の許可だ。リクも役所の書類は見慣れているから、すぐ読める。  ダガーの許可。つまりローランは食事にナイフを使ってステーキを切れるわけだ。ああ、うらやましい。自分はアルルに切ってもらわないといけない。あ、でもフォークが無理だな。 「ねえローラン。武器の許可証って、どうやったら出るの?」 「任務に必要なら、ということになっているけど」  ローランは許可証をしまいながら言う。 「ようするに既得権益ってやつでさ。俺は冒険時代にもともと剣を持ってたわけで」 「僕に許可証が出ることはないってこと?」 「絶対にないとは言わないけど」  リクはため息をつく。 「坊ちゃんは木の棒が武器ですか」  老年の衛兵はリクを坊ちゃんと呼んだ。  皮肉っぽい口調ではない。ただの世間話といった風だ。リクは苦笑する。 「まあ。そうですね」 「いやこれ。木じゃないよ……」  ローランが笑って頬杖をつく。 「竜骨だよ。合法だ」 「竜の骨ですか」 「そうだよ。知ってれば見てわかる。木製の棒なんかのはずがない」  リクは知らなかったが、とりあえず黙っていた。  ひのきの棒だと思い込んでいた。 「合法ですかな。いや疑うわけではありませんが」 「だってただの棒だし。棍棒とは呼べない」 「でしょうか」 「武器禁止法の施行規則を見るとわかるが、棍棒には形状の定義がある。明らかに打撃を意図した重量の偏りと、握りの存在、打撃の威力を増すためのスパイク等が認められなければ、戦闘用クラブとは見なされない」 「む……」  ローランはすらすら説明する。  やっぱそうだよねえ。勇者だと法律に詳しくなるよね。  と、リクは共感めいたものを抱く。 「棍棒の定義はかなりタイトに規定されてる。棒なんてそこら中にあるし、木材も鉄棒も違法になったら大工も鍛冶屋もいちいち武器製造にされる。家の窓に枠がついてたら武器所持にされたらたまらないだろ。年寄りが杖も持てない」 「しかし竜骨製品は規制されてるのでは」 「竜骨製品じゃない。これは未加工の竜骨だ。加工品と言うにはそのまますぎる。それに竜骨製品だとしても所持は違法に当たらない。無許可での製造は違法だが所持は罰則がない。冒険時代に製造された物ならいっさいお咎めなしだ」  老衛兵は黙った。これに抗弁できるほど法律の知識はないらしい。  ローランがいてくれて運がよかった。彼がやったような弁護をリクが自分でできる自信はない。アルルがいたらまた別だが。 「なんだ。それは合法か。いい合法武器があるのではないか。心配して損したぞ。法律的にどうかは知らぬが、じゅうぶん棍として使えるだろう。うまい抜け道を見つけたものだな。勇者リク」  ゼストリエルはリリヤのひざの上で丸まりながら言う。  衛兵たちにはその声は聞こえない。  褒められて嬉しいが、偶然だ。いや、偶然か? 「私の能力でわかる。本物の赤竜の翼骨だ。異界の竜の骨は、木のように軽く鋼より硬く、与えた力に応じて生きたようにしなる。赤竜の骨は、故郷たるカルカナエの影響で、この世界の力では破損することがない。欠けても血を吸って再生する」 「えっ、すごい」  リクは思わずゼストリエルに返事してしまう。 「ですね。ローラン様の知識は大したものです」  リリヤが助け舟を出す。  彼女、リリヤについては、取り調べらしい取り調べはほとんどなされなかった。  ニンフライト家の侍女という立場を明らかにし、仔細はニンフライト家に問い合わせよの一点張りで、そのままそれが通った。衛兵たちも扱いかねたと見えた。何しろニンフライト家は、彼らの大元の雇用主でもある。 「あたしだ。スカイル・ニンフライトの使いで来た」  階下から聞き覚えのある声がする。  ほどなく、声の主が階段を登って現れる。 「やあ、ティステル」 「ど、どうも。ティステルさん」 「やらかしましたな。大将」  ティステルは何か嬉しそうに、リクとローランに笑いかけた。  彼女は老兵にうなずくと、手をさし出し、彼の書いていた書類を受け取った。 「あんた方をお屋敷に連れていきます。あのおっさ……いや旦那様がお呼びで」 「グラフト様が」 「悪いようにはされないと思いますがね」  グラフト・ニンフライト、この土地の首長だ。  そして、アルルの父親でもある。 「あー、あの人かあ」  リクは頭をかかえる。 「苦手なんだよなぁ。疲れるんだよ。アルルのお父さん……」

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