偽物笑顔の暗殺者 ―嘆きの精霊バンシーに取り憑かれた青年の行く末―

噂話は女子に聞け

 夜中の山中からかすかに聞こえる、か細い声のわらべ歌。  春樹は耳にした時、まず勘違いを疑った。  見知らぬ土地の、真夜中の寂れた集落。その雰囲気がもたらす恐怖心や不安感などが、山鳴りを声と認識してしまったのだろうと考えた。  そして、もう一度耳をすます。だがそれ以降わらべ歌は聞こえて来なかったと人へ春樹は伝えた。 「何で黙ってたの?」  と、灯里は素朴な疑問を口にする。 「だからよ、俺は勘違いと確信していたからお前らに話す事も無ぇかと思ってな」  常識的に考えて、夜中の山中で歌う者などまず考えられない。オカルト信者なら「幽霊だ!」と騒ぐのだろうが、あいにく春樹は幽霊に対して否定論者だ。恐怖心からの勘違いだとしたら、話す必要を感じなかったとしても仕方無い事かもしれない。 「ここは見知らぬ土地よ? 何があっても、些細な事でも情報は共有すべきと私は思うわ」 「そーだよ。決めつけるのは勝手だけど、情報として話すべきだよ」 「うん。僕もそう思う」  その春樹に対し、雫と灯里と蓮は揃って同じ意見を春樹に告げた。 「わぁったよ。今回は俺が悪かった」  それを受けた春樹も、素直に謝罪の言葉を人へ伝える。  強情な者は確実に損をする。特に、横の繋がりの希薄な組織においてこの人は特殊な関係と言えよう。だからこそ、素直さと言うのはこのチームにとって重要な資質だった。  結束が揺らがぬ為に。  信頼を裏切らぬ為に。 「でも、確かに怪談話はあまり意味の無い情報かもね」  春樹の謝罪を聞き、ここで灯里は自分の意見を皆に伝える。 「怨恨とわらべ歌……関連性なんて無いでしょうしね」 「それよりも重要な事はいくつかあったからな」  雫も灯里に同意を示し、春樹もここで話題を変えた。 「まず……気狂いの原因はどうも息子の死に起因しているみてぇだな」 「なんとか様の倅がどーのってのも言ってたね」  自分たち【怨恨部門】に依頼をした経緯に繋がる話を春樹は遡上に上げ、灯里も伴う意見を添えて述べる。  まず、重要なのは依頼動機だ。そこを掴まねば依頼の達成は成し得ないのだから。 「訪問した時『主人はまだ仕事』と言ってたけど、こちらも亡くなっているみたいね」 「町内会のおっさん達も言うように、ちとおかしいからな。あの時は主人も存命だったんだろう……和島静代の中では、だけどな」  雫は思い出す。  赤子人形を腕に抱き、正気を失った目であやす和島静代のあの時の姿を。恐らく和島静代は、何らかの切っ掛けにより精神が過去の幸せだった頃へ遡行(トリップ)してしまうのだろう。それを思うと、雫は何とも言えない気分に陥ってしまいそうだった。  だから雫は自戒する。  可哀相、などと同情してはいけない。自分たちは、その『可哀相』を生み出す側でもあるのだから……。 「指の怪我も、関連性はあるのかしら?」  その僅かな心の葛藤を払拭するように、雫は気になった箇所を挙げて話題に乗せた。 「それも最近のようだし、無くはないだろうな」 「うん、私はありそうだと思ったよー」  雫の意見に、春樹と灯里も賛同する。 「じゃあ整理するぞ」  そして、春樹が会話をまとめにかかった。  とりあえず現時点での確認項は重要な事柄がつ。そして気になる事柄がつとなる。  重要な件は、息子の死亡原因と(あるじ)様の倅と言う人物との関連性。  気になる事柄は、和島静代の旦那の死亡時期と指の怪我の時期となった。 「じゃあ、月島は息子関連の件に当たってくれ」  と、春樹は灯里へ指示を出す。  それに対し、灯里は軽く不満の声を上げた。 「えー! 知らない土地だからサポート欲しい。雫姉!」  灯里の不満は、見知らぬ土地に人で行う事への不安感だろう。咄嗟の動きは鈍るかもしれないが、灯里の言う不満も最もな話であった。  その為に、灯里は雫を指名する。 「それもそうだな。先生、頼めるか?」 「ええ、良いわよ」  春樹も灯里の不満に理解を示し、雫も同様に頷き答えた。 「じゃあ、俺と蓮は指の怪我と亡くなっている旦那の件だな」 「うん、分かった」  春樹がそれぞれの分担を決め、人は情報収集、及び調査へと出向く事となる。  準備の為に自分たちの部屋へと帰る、灯里と雫。  こちらも準備の為に、手荷物などの確認作業に入る春樹。  その一方で、蓮はポツリと独り言を漏らしていた。 「……わらべ歌も、何かありそうに思うんだよね……」  しかしその声を聞き止める者は誰もなく、虚しく部屋の中に掻き消えていった。 ◇  灯里と雫は日後、集落からつ離れた市町村にある県立高校へと出向いていた。  人揃ってスーツを着込むその外見は、この田舎町ではあまり見ない装いである。人はそこで、生徒たちの出待ちをしていた。 「あの子が良いんじゃない?」 「そだね、ちょうど良さそう」  そこで人が目をつけたのは、この辺の女生徒にしてはオシャレな外見の少女だった。  その少女へ近付き、代表して雫が親しげな口調で声をかける。 「ねぇ、そこの貴女(あなた)。少し伺いたい事があるんだけど良いかしら?」  突然の事に、その少女は怪しむような目線で雫を眺めた。 「ゴメンなさいね、私達はこう言う者なの」  そこへ、灯里が同じように親しい口調で名刺を差し出す。名刺はもちろん偽造だ。その名刺には、いかにも東京にありそうな架空の出版社の名前が明記されていた。 「え……私に、何の用ですか?」  その名刺により多少は先程より警戒心も薄れたのか、少女は話を聞く体制を取るように聞き返す。 「私達、夏に出版予定の企画の為に来たの。あ、これは去年出版した冊子の原本ね。東京限定だから知らないと思うけど」  そう言って、雫はカバンの中から一冊の冊子を取り出し少女に見せた。 「夏企画……近畿に伝わる現代の摩訶不思議?」  少女が声に出して読み上げたその冊子は、名刺と共に春樹が作り上げた偽物の冊子である。しかし少女は、疑う事なく冊子に目を通していた。 「そう。それで今年は北陸の特集記事を企画してるのよ。今からまとめて上へ提出しないと、夏には間に合わなくてさ」 「古い話ばかりじゃ面白味も無いからさ、貴女のような若者たちに伝わる話は無いかと思ってね」  雫と灯里のでっち上げたその話に、少女は戸惑いながらも興味を示す素振りを見せる。 「え……と、私の知ってる話は……」  そして最初はたどたどしく、しかし徐々に気の入った言葉で少女は自分の知る話を人に聞かせた。  それを、レコーダーとメモ帳で真剣にメモを取るふりを続ける雫と灯里。 「……うん、ありがとう。良い話が聞けたわ」  少女が話終えた後、雫は優しい笑顔で礼の言葉を少女へ伝えた。そして灯里も同じくお礼を伝え、それと共につの質問を少女へ投げかける。 「ありがとう、新鮮味のあるとても面白いお話だったわ。ところで、別の子から聞いたんだけど、あの山で夜中に歌が聞こえる話はご存知かしら?」  少し遠目に見える山を指差す灯里。  その質問に対し、少女は「聞いた事はあるけど……」と言葉を濁した。 「その話も聞きたいのよねぇ」 「ねぇ、貴女。誰か、あの山の付近から通ってる子は知らない? 出来れば女の子で。男の子だと話し掛けにくいし」  人の問いかけに、少女はキョロキョロと辺を見回すと遠くを歩く人の女生徒を指差した。 「確か、あの子がその辺から通ってる子でしたよ」  その少女の言葉を聞き、人は僅かに口の端を上げる。 「ありがとう、助かるわ」 「ねぇ、先程のお話を掲載する時には貴女のお名前を載せても良いかしら?」  そうして少女との会話を適当なタイミングで切り上げた人は、その少女が指差した女生徒へと向かって歩き出した。 「やっぱり、ああいう子は都会に弱いわね」 「名刺で態度変わったもんね」  人は小声で感想を言い合う。  オシャレな外見の女生徒に的を絞って話しかけたのには、それなりの意味があった。  田舎に住む高校生くらいの年齢の少女は、とかく都会に憧れを持つ傾向にある。オシャレな女の子なら、それはなおさら顕著であろう。  そこへ都会の、しかも雑誌記者の女性に声をかけられたらどうなるか。相手は憧れの対象である都会人だ。しかも情報の最前線である雑誌記者ともなれば、警戒心よりも興奮のほうが先立ってしまう。  人はそこを突き、まずは情報の手がかりとした。 「あそこじゃ、下手に調査も出来ないもんね」 「まぁ……無理よね、あそこじゃ」  件の集落で情報を集めようものなら、噂は立ちどころに広がってしまうだろう。そうなれば、排他的な思考から有益な情報を得る事など叶わないと人は考えた。  そこで白羽の矢を立てたのが、この県立高校だ。  高校生の、それも女子生徒なら警戒心さえ解いてあげれば情報を得やすいと人の意見は一致をみた。男子生徒の場合だと、変に緊張して口をきいてくれない事もあり得るからだ。それに、噂話は女子生徒のほうが色々と知っているものである。 「あの子ね、行くわよ」 「ねぇ、そこの貴女……」  こうして人は、集落出身の女子生徒との接触を果たす。  人は夜中の山中から聞こえてくるわらべ歌など信じてもいなかったが、利用出来る都合の良さは果敢に取り入れる柔軟さは持ち合わせていた。

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  • 殻ひよこ

    秋真

    〇10pt 2020年3月2日 22時34分

    真相に迫る為、一拍おいた回でしたね!推理ものも好きなのでこの雰囲気もいいですねー!あとは、やはり山の中での『わらべ歌』ですね。この辺りの猫屋敷さんの醸し出し方好きですねー!駿甲相の三国同盟は強力ですよねー!ちなみに最速でクリアしたいときは上杉を使っていました笑

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    秋真

    2020年3月2日 22時34分

    殻ひよこ
  • 真田幸村

    猫屋敷たまる

    2020年3月3日 1時02分

    わらべ歌……実は、あれにも含むものがあるんですよね。依頼人なりの、込めた想いが。ただ、それをどう表現するか悩み中(笑)依頼人に語らせようにも、正気を失ってるし(^_^;)最速クリアは上杉っすか!人員や場所的に美濃かと思ってました。

    ※ 注意!この返信には
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