第二部ちわりいパートです。 最後までお付き合い下さいませ。

ちわりいパート

葬儀は淡々と進み、はっと気づいたときには、僕の身体だったものは、重い壺になっていた。実に呆気ないものだった。 「ねえ、」 「なあに、おじさん。」 「ちょっと外、出ない?暇だろ。ジュース買ってあげる。」 「でもおじさん、死んでるからジュース買えないじゃん。まあいいや、暇だから。母さんに適当に言ってくるよ。」 「うん。」 僕は、自分の遺影を見続けることに疲れを感じていた。僕は自分の顔にあまり自信ないから、生前、ほとんど写真を撮らなかった。あの写真、一体何処から見つけ出したんだろうか。 「よし、おじさん、行こう。」 「何て、言ってきたの?」 「なんでもいいでしょ。ところで、何処に行くの?」 問われたところで、特に行き先を考えていなかった僕は少し考えて、言った。 「この近くに、河原があるだろう。あそこの桜並木が、確かちょうど、綺麗なんだぜ。」 「ええ、おじさんとお花見?」 「なんだっていいだろ。」 思い返せば、僕は、じっくり桜を見ようなんて考える暇が無かった。それほどに僕は、仕事に打ち込んでいた。それしか生きる方法を思い付かなかったから。隣で歩く少年を見る。彼は生きている。僕の足を見る。僕は死んでいる。春の風が、僕の身体を通り抜ける。この子は、柔らかな春の風を、一身に受けることができる。そういえば僕は、四季の中では一番、春が好きだったことを思い出した。 「ねえ、おじさん。」 「なに?」 「あのさ、春って、好き?」 「……好き、だった。」 「だった?」 「うん……。今は、好きとか嫌いとかは、ないよ。ただ、昔は、好きだった。草の匂いとか、水仙の匂いとか……桜が散るのとか。温かいから。好きだった。でも、疲れてしまったからね、もう、春になにも感じない。」 「そっか。……おじさん、僕ね、春、嫌いなんだ。皆、何処かに行くから。春が連れてっちゃうんだ。良い先生も、友達も。皆。おじさんも連れてっちゃった。」 「……一応、まだ居るけどね。」 「すぐに、天国に行くよ。」 「行けるかな、僕。」 「さあ、でも、おじさんが地獄行きは、嫌だな。」 「そうかい?」 「うん。」 「そうか、ありがとう。あ、自販機あるよ、好きなの言いなよ。買ってあげる。」 「だからおじさん、幽霊だから買えないじゃんって。」 話しているうちに、僕たちは河原に辿り着いた。八分咲きだったが、桜は桜だ。綺麗なことには変わりなかった。久しぶりに現物を見て、春が好きだったことが嘘ではなかったことが、少し嬉しかった。少年を見ると、その目には、少年らしいキラキラした目で、桜を見ていた。桜色の唇を少し開いて、強めに吹いた風のせいで散っていく花吹雪の一つを右手で掴んで、笑っていた。この子は、生きているな、と思った。僕も、生きていたのに。 「桜、すごいね、おじさん!」 「ああ、そうだね。すごく良い場所だ、ここ。……生きてるうちに来ればよかった。」 「えっ、今なんて?」 「いいや、何でも。」 僕たちは、時々立ち止まって、花びらが僕の身体を通って、地面に落ちるのを見たりした。桜並木が途切れる頃、少年が言った。 「ねえ、おじさん。」 「なに?」 「死ぬのって、どんな感じだったの?」 「……どうだったかな、ああ、そうだ。物凄く、頭が痛かったな。酷いんだ、あの痛みは。突然、殴られたみたいになるんだ。そうして、吐き気が、身体の中をぐるぐるして、全身が、地獄みたいになったな。それから、記憶がなくて。気づいたらこうなってた。」 「それ、怖いね。おじさんは、怖かった?」 「そりゃあ、怖かった。あまりにも突然だったからね。とてもじゃないが、何も考えられなかった。頭が真っ白になってね。遺言もくそもなかったよ。」 「そっか……。おじさん、死ぬ前、好きなこと、できた?」 「……好きなことが、無かったから。今死んで、良かったのかもしれない。よく分からないや。死んでいなかったら、僕は今、職場で仕事をしていたはずだから。僕は仕事が好きじゃなかったからね。部下には迷惑をかけるかもしれないけれど。」 「そっか。」 「うん、」 「桜、終わっちゃうね。」 「うん。」 「どうする?おじさん。引き返す?」 「どうしようか、」 振り返ると、風が強く吹いて、たくさんの花びらが散り、地面に落ちて死んでいった。春の匂いがする。命の匂いがする。僕はどうだろう。この子はどうなんだろう。

ちわりいパートいかがだったでしょうか? 次のお話で完結となります。 第三部もよろしくお願いします。

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