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純情盗賊 ティアドロップス

読了目安時間:4分

第七章

第51話 マイ・スウィートモーターホーム

 ジムのアジトは荒野の外れにある、赤く錆ついた巨大な格納庫だった。 「こいつはすごい。この化け物みたいなマシンはみんな、ジムがこしらえたのか?」  格納庫にびっしりと並ぶトレーラーや重機を目の当たりにして、俺は唖然とした。 「ああ、そうだ。……と言ってもかつて『モンスターレース』に関わっていた頃の名残じゃがな」 「モンスターレース?なんだそれは」 「作業用のマシンをチューンナップした車で難路に挑むレースじゃよ。もう十年以上前のこったがな」 「ふうん。だから『レインドロップス号』みたいな万能マシンも簡単に作れちまうわけか」  俺が感心して見せるとジムは口元を曲げ、皮肉めいた笑みを浮かべた。 「じゃがそんな生活をしていると、家族の面倒を見ることもままならんでな。最悪の日にわしは家を空けてしまった」 「最悪の日?」 「息子が家政婦とピクニックに出かけた日じゃ。身体が弱かった妻は家政婦に息子の面倒を見させていたが、行楽先でばったりボーイフレンドと会った家政婦は、うっかり息子から目を離してしまったのだ」 「誘拐でもされたのか?」 「誘拐の方がまだましじゃったよ。家政婦が目を離した隙に息子は畑に埋まっていた不発弾に触ってしまったのだ」 「…………」  レースから戻ったわしは迂闊にも妻をなじってしまった。その日から妻は口を利かなくなり、数日後、近くの天然タール沼に自らを沈めたのだ」 「……ジム、無責任なことを言うようだが、それは不幸がたまたま重なっただけだ」  俺が慰めを口にすると、ジムはわかっとるとでもいうように眉を下げ、頷いた。 「言いたいことはわかっとる。わしはただ、息子と妻のために自分に何ができるかをずっと考えておったのだ。こうして生きている以上、何か意味のあることをせねばとな」 「でもレースはやめてしまったんだろう?この格納庫を見ればわかるぜ」 「そうだ。わしは息子と妻の魂の居場所を……動く墓をこしらえることにしたのだ」 「動く墓だって?」 「お前さんたちが乗ってきた『レインドロップス号』じゃよ。わしの全ての知識と経験を詰め込んだ、家という名の墓だ」  ジムはそこでいったん言葉を切ると、パイプに煙草の葉を詰め始めた。 「わしは旅に出たが、妻の眠る沼と、そのほとりに立てた息子の墓だけは人に渡したくなかった。ところがわしのチームのオーナーだったガルベスという男が、この土地と『レインドロップス号』を売れと言ってきたのだ。奴は天然タールの沼と『レインドロップス号』に積まれている『ディノモーター』という高性能エンジンが欲しいのだ」 「断ればいいじゃないか。何か弱みでも握られているのか?」 「こいつを造った時、迂闊にも借金をしてしまってな。色々な物を売って返済してきたが、奴は何だかんだと理由をつけて利子を吊り上げ、強制的に立ち退かせようと画策してきた」 「盗賊以上のワルだな。叩きのめしちまえよ、ジム」  ノランが頭から湯気を出しかねない勢いで言った。 「息子と妻の思い出はすべて、この車両のメモリに移してある。ここにあるのは骨だけだ。……それでもわしは時折ここを訪ね、息子と妻に詫びずにはいられない。ガルベスがもし、わしから思い出も家もすべてを奪う気なら、奴と刺し違えることも辞さないつもりじゃ」  ジムは長い話を終えると、パイプに火を点けた。 「……なあジム、身の上話を聞いちまった以上、俺たちにも何か手伝わせてくれないか」  俺がそう申し出ると、ジムは目を細めて煙を吐き出した。 「そう言ってくれるのは嬉しいが、お前さんはまず、自分のアジトを再建することじゃ」  俺は思わず頷いていた。確かに他人に同情していられる身の上ではない。 「ジム、俺たちはファミリーだ。俺にできることがあったらいつでも……」  俺がそう、切り出しかけた時だった。格納庫の外で、地面を揺るがすような爆音が突如として響き渡った。 「――なんだ?」  俺たちが外に飛びだすと、荒野の一角に見たこともない巨大マシンが停まっているのが見えた。円筒形の胴体から無数の多関節アームを伸ばした姿は、さながら金属の蛸だった。 「よく聞けマーマレード・ジム!貴様の借金は今日が返済日だ。貴様の財産はこの俺が強制的に接収する。今すぐこの場所を立ち退かないと、息子や女房と同じ運命を辿るぞ」  蛸型マシンの胴体から現れた髭面の男性は、ジムを恫喝すると不敵に笑ってみせた。 「くそっ、何て奴だ。……ジム、お俺たちも一緒に戦うぞ」  俺が加勢を申し出ると、どういうわけかジムは口元を愉快そうに曲げてみせた。 「ふむ、とうとうきおったか。……余計な手出しは無用じゃ、ゴルディ。今から『レインドロップス号』の底力をあやつに披露してやる。そこでとくと見ておれ」  ジムはそう言うと俺たちをその場に残し、『レインドロップス号』へと乗り込んでいった。        

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