怪奇異譚─KAIKIITANN─

読了目安時間:4分

エピソード:3 / 5

廃駅の怪

 私がその駅のことを知ったのは、雑誌のカメラマンからだった。  廃墟特集というものに写真を載せるというので、ここへ送り届けてくれないか、と言うのだ。  私は小さな田舎(いなか)町から周辺の村落へ人を送り届けるタクシー会社のドライバーだが、そんな場所に廃駅があるなんて聞いたことはなかった。 「知らないなぁ。本当にそんな場所──あるのかい?」  私は客のカメラマンに尋ねる。 「でなければ、ぼくが行く意味がなくなっちゃいますね。ないと困りますよ」  そうは言うが、この町や集落でのタクシー運転手として十年近いキャリアになるが、そんな駅のことなど誰からも聞いたことはない。  こちらとしては、長距離を移動する客を乗せるのは嬉しいことだから、廃駅があろうがなかろうが、どちらでもいいのだが。  男の指示でカーナビに目的地を設定し、車を走らせているが──だんだんと、山の中へと入って行く道に車は向かって行った。アスファルトで舗装された道を進んでいると、カーナビは脇道への進路を取るように指示を出してくる。 「ここを……入るのかな?」  そこは未舗装の、砂利が()かれただけの細い道だった。こんな所を通って行こうだなんて、テレビで見た「ぽつんと○軒屋」くらいのものだろう。  それにしても……このあたりにあった鉄道の話など、噂でも耳にした記憶がない。地元の住人と何度も話をし、住んでいる人の名前から、以前あった村医者の診療所まで──くわしく調べたはずだが。  まあ、この砂利道の先に行って何もなかったと帰って来るのが落ちだろう。こちらはそれでもかまわない。  車はがたがたと揺れながらゆっくりと先に進み、木の陰が作り出す暗いトンネルを抜けると、そこには少し広くなった明るい場所があった。  草の生い茂る場所の近くで車を止めると、これ以上先へは進めないだろうと客を振り返る。 「カーナビはなんと?」  確認すると、車の左方向に目的地があると表示されている。  そちらのほうを見ると──確かに、草むらの向こうに廃墟らしい物が見えていた。  茶色い屋根に、灰色の壁。そんな感じの建物だ。 「ここで待っててもらえますか。なぁに、1時間もかかりません」 「停車分も料金は払ってもらうよ」  そう言うと、若いカメラマンは肩をすくめる。 「領収書を用意しておいてください」  男はカメラとアルミケースを持って、草むらの中へと入って行った。  こちらは男の帰りを待つために車を反転させて、いつでも帰り道に向かって走り出せるようにしておいた。  車の中でタバコは吸いたくないので、蒸し暑い外に出てタバコを口にくわえ火をつける。  男の背中を見ていると、草むらの遥か向こうにある廃駅に向けて、草をかき分けながら進んで行く最中だ。周辺の森や山からは、うるさいくらいに鳴くセミの声。  ……それからかなりの時間が流れた。夕闇が迫って来る時間だ。  男が車を離れてから2時間近くが経過しようとしている。  うるさいアブラゼミの鳴き声に、ヒグラシの鳴く静かな声がまじりはじめていた。 「おいおい、まさかどこかへ逃げ出したんじゃあるめぇな」  まさか、こんな山間部にある廃墟から、どこへ逃げ出すというのだろう。しかし、このままでは運賃を支払わずにすっぽかされてしまう。  私は意を決し、車に配備していた懐中電灯を念のために手にして、男のあとを追いかけた。 「まったく……なんてぇ日だ」  がさがさと草むらをかき分けて進む。カメラマンの通った道の跡を通っている分、歩きやすい。  廃墟の近くまで来ると、そこは確かに古い駅のようだった。線路は見当たらないが、駅舎とプラットホームが段差の上に作られている。 「ぉお──い、カメラマンさ──ん。出て来てくれやぁ──」  私の呼びかける声は、セミの鳴く声にかき消されてしまう。遠くで鳴くセミの声がジィジィ、ミンミン、カナカナカナとやかましい。  割と近くから、グワァ──ッというカラスの鳴き声がして飛び立ち、びっくりしたが──やはり誰もいない様子だ。 「おんやぁ」  高くなった場所に何かが置いてある。  ……それは、カメラマン手にしていたアルミケースだ。  段差に上がり、周囲を見回すと、コンクリートでできたプラットホームに、()()()()()()()()()。  カメラは肩にかける部分が切れて、そこに落ちたみたいだった。頑丈そうな黒いベルトに()()()()()()()()()()()を見つけた。 「かっ、カメラマンさん……?」  周囲を警戒しながらカメラを拾って、小声で呼びかける。  カメラの落ちていた先の、線路があったと思われる溝の近くに、()()()()()()()()()()()()を見つけた。  恐る恐るそこへ近づいて溝を覗き込むと、そこには線路はなく、石が敷かれた場所があるだけだった。  だが、その石ばかりの場所の一部が、真っ赤に染まっていたのだ。 「あわわわわぁ……」  それがカメラマンの流した血であるなら、あの男は無事ではないだろう。 血の跡は石の上を引きずられたような感じで、線路のあった溝の先まで伸びている。  私はカメラとアルミケースを持つと、車まで慌てて戻り、後部座席にカメラなどを置き、すぐに車を発進させ、その場から逃げ去った。  私はそのすぐあとに交番に行き、洗いざらい説明した。  最初は半信半疑といった態度の警察官だったが、カメラの中に残された写真を確認すると、表情が一変する。  そこには……得体の知れない、黒い肌をした人型の化け物みたいなものが写り込んでいたのだ。  それがなんなのか、私にも、警察官にもわからなかった……

「なんて日だ!」 そりゃカメラマンのほうが悲惨ですよ。 人の入り込まない場所には注意しましょう。

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • ヨミガラスとフカクジラ

    全てを失った英雄を廻る、奇妙な運命。

    425,105

    618


    2022年12月9日更新

    飛行船により、浮遊大陸から人々が空へ駆け出して二世紀以上。 空中都市連邦“バラクシア”の首都と呼ばれる、工業都市“レガリス”はバラクシア国内で勃発した奴隷制度を巡る浄化戦争を乗り越え、奴隷制度を存続させる事に成功していた。 黒羽の団と呼ばれる抵抗軍の撲滅と奴隷制度の推進を掲げ、レガリスの帝王と帝国軍による帝国は益々隆盛を極めていく。 そんな中、“レガリス”において全てを失った男が居た。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:25時間15分

    この作品を読む

  • あじさい色のアミィ~永久に枯れない花束を~

    全てのメイドさん好きの方に捧ぐ

    0

    0


    2022年12月10日更新

    アンドロイドの普及が進み、アンドロイドが『第二の人類』とまで呼ばれる域に至った近未来に、『響 恭平』の元にやって来たメイドアンドロイドの『アミィ』。 アミィは表裏のない素直な性格で、やや気弱で真面目すぎるところはあれど、基本的には主人のために全力をもって仕事に臨む気概を持ったメイドである。 そんなアミィは、恭平の為にメイドとしての仕事をこなそうと奮闘するが、そんな意気込みとは裏腹になぜか失敗の連続で、アミィの中に徐々に自責の念が積もっていく。 恭平はアミィが気楽に仕事に臨めるようにと、アミィを強く咎めることはなかったが、そんな恭平の気遣いは生真面目な性格のアミィには逆効果だった。 そして、自責の念が臨界点まで達したアミィは、ついに恭平に対して思いの丈を爆発させてしまう。そんなアミィを見て、恭平は自分の配慮がいかに軽薄だったのかを痛感する。 だが、それをきっかけとなって、恭平にメイドの主人としての自覚が芽生え、結果としてお互いを再認識することとなり、心機一転、改めて主人とメイドとしての共同生活をスタートさせる。 そんななか、とあるいざこざが引き金となり、アミィの中で、もうひとりのアミィが目を覚ます。 そのアミィは大胆不敵にして徹底したリアリストで、メイドの仕事とは縁遠い卓越した戦闘技術と相手の精神を揺さぶる話術、そして、筋が通らない事柄を見逃せない熱い義侠心を備え持っていた。 時には温厚で控えめ、時には好戦的で現実主義というアンバランスな性格を宿したアミィは、様々な人間やアンドロイドと触れ合いながら様々な出来事を経験し、やがては主人とメイドという枠を越え、恭平と共に道ならぬ険しい恋路を歩んでいく。 そして、その恋路のあらゆる箇所に横たわる二人目のアミィの出生の謎をきっかけに、恭平達は世間を揺るがす大事件へと巻き込まれ、立ち向かい、出会いと別れを繰り返す。 その事件の裏に幾度も登場する二人の男と一人の女。その三人の因縁はあらゆる事象を巻き込みながら交錯し、やがて二人目のアミィの存在そのものへと集約されていく。 この物語は、人工知能が進化を重ねた未来に於いて起こるであろう、人間と人工知能の共存によって生じる正の側面と負の側面を、二人の愛を通じて描いた物語である。

    読了目安時間:31分

    この作品を読む