機械屋彼女と物書き彼氏

読了目安時間:2分

一章 5

ビールと泡

 奏はエプロン姿で出迎えてくれた。尚樹が立ったままでいると、 「おい、さっさと入れ。ここにいつまでもいるわけにもいかないだろ」  と背中を思いっきり叩かれた。  尚樹が痛みに悶絶していると、 「龍生!尚樹が痛がってるじゃない」  と奏がたしなめた。龍生はしょんぼりしている。 「早く入って。ご飯、もう出来てるから」  奏に背中を押され、中に入った。  家は新築で、まだ1年も経っていない。  2人が 家を建ててから、尚樹はまだ家の中には入っていなかった。入ってみると、新築の家独特の匂いがする。 「お邪魔します」  玄関を進んでリビングに入るとハヤシライスの良い香りがする。奏の作るハヤシライスは、尚樹の大好物だ。 「俺の好物、作ってくれたんだ」 「当たり前じゃない。今日は尚樹がお客様なんだから」  奏は胸をはって答えた。 「さあさあ、座って。食べましょう」  尚樹は奏によそってもらったハヤシライスを食べた。 「美味しい」  尚樹は夢中でスプーンを動かす。久々に、誰かに作ってもらった手料理を食べた。  あっという間に尚樹の器は空になった。 「良い食いっぷりだ。ビールも飲め」  龍生がグラスに注いでくれたビールも、尚樹は一息で飲んだ。 「無理しないでね」  奏が心配してくれるが、尚樹は構わずに飲んだ。 「よし、俺も飲むぞ」  龍生も飲み始めた。  尚樹は最初こそ勢いよくビールを飲んでいたが、すぐに酔いが回ってきた。 「もう龍生と奏が結婚して5年か」 「そうよ。尚樹が初めて小説を出したのと同じ年」 「そっかあ。そう考えると早いな」  尚樹はゆらゆらしている頭を必死に抑え、言った。 「尚樹と初めて会ってからはもう8年かあ。年取るわけだね」 「皆、年は取るよ。俺だって」 「尚樹は変わらないよ。」 「ほんとだな。尚樹は変わんないよな」  2人は顔を見合わせて笑った。その姿が眩しくて、尚樹はグラスに視線を落とした。 「夫婦揃って失礼な奴らだ」 「ごめんごめん。尚樹の好きなプリンも買ってきてるから」 「プリン!」  尚樹は大声で叫ぶ。笑う2人を尻目に、尚樹はプリンを3個平らげた。  気がつけば、尚樹は眠ってしまっていた。  起きて周りを見たが、2人の姿はない。もう2人も眠ってしまったらしい。  人の家のソファに横たわったまま、尚樹は取り敢えず寝ようとしたが、1度起きてしまうと寝られず、しばらく天井を眺めていた。  辛いもんだな。真っ正面から受け止めると。  奏の幸せそうな顔を見るたび、心は傷んだ。 「いい加減俺も前に進まないとな」  声に出して言ったが、実行できる自信はなかった。

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